第3話

 日にちが立つのが年々早くなってきた気がするこの頃、既に合格した日から十五日ほどたち入学式を迎えた。

 と、言っても全日制のように体育館のような大きく広い場所で入学式をやるのではなく。普通の教室のその教室の半分を足したぐらいの広さの食堂で入学式を迎えていた。


「新入生代表、新島弘人にいじまひろと


 今ちょうど新入生代表が良くある謝辞てきな何かを喋り終わったところだ。

 ま、しかしだ。予想道理と言うか、想定内と言うか、わかりきってたと言ってもいいのか。やはりと言ってクラスの人数が少ない。

 白工定時制では大きく分けて二つの科が存在する。一つ目は機械電気科、二つ目は土木建築科である。まぁ、もっと分けると機械科、電気科、土木科、建築科に分けられる。


 因にだが俺は機械科を選択した。理由は簡単、一番多く資格がとれると言った単純な理由である。

 それにしても機械電気科と土木建築科を合わせて総勢十三人てどうなんだろう?

 全日制に比べれば一クラスにだって満たないこの人数で入学式をやるとなんとも寂しい感じがやるせない。


「それでは各学科ごとに別れて教室に向かってください。」


 合格時に学校の案内をしてくれていた中年の男がマイクを持ち俺を入れた十三人を二つに分けた。

 機械電気科は七人、土木建築科は六人に別れて各教室に担任の教師が引率のもと向かった。

 どうやら教室に関しては全日制と同じものを使用するらしく中学で良くあった机のなかに物を置いとくことが出来なくなった。


「え~と、このクラスの担任をすることになった尾井花陽子おいはなようこです。よろしくね!」


 元気良く挨拶する担任は見た目が20才後半で黒髪のロング、特に不細工と言うわけでもなく美人と言うわけでもない、普通の顔をしている。


「明日からの予定を大まかに説明するので良く聞いていてください。」


 それから担任の尾井花が明日の予定が書いてあるプリントを渡して説明をした。

 どうやら今日はこれで解散らしく、明日以降に教材、曜日事の時間割、部活動などの説明があるらしい。それら一式が終わると2日後くらいから授業が始まる。


「明日以降は十七時から十七時半にはこの教室に集合していてください。それでは説明は以上なので解散とします。もし、質問があるようでしたら私の方へよろしくお願いします。」


 そう言うと他の生徒たちとその付き添いできていた親御さんは教師に質問をしたり帰ったりと各々の行動を取り始めた。


「そんじゃ、俺らも帰ろうか。母さん」


 横に座っている母さんにそう伝えて俺と母さんは教室を出た。

 教室を出ると廊下では他の教室から笑い声が聞こえていた。その教室は他の学年の人たちの教室だった。


「……笑い声か。」


 楽しそうに笑っている声が聞こえた方を見て俺は何故だかそんな言葉を呟いてしまった。それは無意識であったから自分がそれを言っていたことを気づかずそのあと外に出たときに母ちゃんにその事を伝えられその後に「笑い声が聞こえてよかったね」と言われてしまった。

 その時は無性に恥ずかしく母ちゃんの方を向けなかった。

 でも、ホントは嬉しかったのだろう。いや、もっと正確言うのなら安心したのだろう。この学校でも嫌なこと以外もあるのだと、全日制を落ちて嫌なことだけではないのだと。そう思うと少しだけ心の中のしこりのようなものが取れたような気がする。


 家についてた時間は既に十八時を過ぎていて妹がご飯の用意を始めていた。ご飯の用意を恵香がやっている間俺と母さんは自室に戻り部屋着に着替えてからリビングに戻った。


「できオ~!さっさとテーブルにはこんで!」


 変に語尾を伸ばす恵香を無視して俺は皿を持ちテーブルに並べた。

 それにしてもきょうの料理は少し豪華すぎる。見た目もそうだが、なんと言っても量が凄い。一つの皿につき三人前はある。


「何、この量と豪華さは?」


 明らかにおかしい量と豪華さを恵香に聞いたが、反応がかえってこなかった。それを疑問に思い、恵香の方を向いた瞬間、クラッカーの音が聞こえた。


「入学おめでと~!」


 そこにはクラッカーを持った、恵香と母親、そして親父がいた。


「な、何だよ。たかだか入学式で、こんなん。」


「……お兄ちゃん?たかだかじゃないよ。だってお兄ちゃんが頑張ったの知ってるし、勿論、全日制に落ちて悲しんでたのも知ってる。」


 恵香は一度そこで話をきった。そして、近づいてくると俺を抱き抱えるようにして自分の方に近づけた。


「だからさ、今は喜んでいいんだよ。無責任かもしれない、もしかしたら煩わしいかもしれない、だけど!私はそれでも言うよ。お兄ちゃんは喜んでいいんだよ!」


 恵香のその言葉を聞いた瞬間何かが溢れ落ちたような気がした。それはきっと、心配とか不安とか、全日制に行けなかった悔しさとかそう言うものだと思う。

 そして今は、恵香に言われた言葉に心底救われた。多分、俺は恵香に、いや、誰かに認めてほしかったんだと思う。自分の頑張りを認めて貰いたかったんだ。

 だから、春さんにも恵香にもあんな皮肉めいた言い方もした、定時制の事を悪く考えようとしていたんだとおもう。


「あり、が……と。」


 お礼の言葉を上手く口に出せない。しかし、それでも言いと思った。だって俺は今、泣いているのだから、しょうがないのだ、そうしょうがない。

 俺がいつか、ちゃんとお礼を言えるその時まできっとこの人たちは待っていてくれるはずだから。そう思えるほどに信頼していいのだから、いつかちゃんとお礼を言おう。


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