のらりくらりⅡ
「いってぇなぁ......。まったく」
コツコツ鋭い階段をそれとは真逆な雰囲気でマイペースに上がる。
形に合わない不規則変化で、ときどきリズムも変えながら。
こつ......こつこつとんとん......こつこつ。
広間にてソファに横たわる、マーシェル。
娯楽なしでは暇なのか、タイタンから抜けて初めてテレビの電源を付けようとした。
「あれ?リモコンない......。あっファットさんのポケットだ」
「なんでそんな物入っているのよ」
彼はマーシェルから見ると一つ上の階。このリビングはコントロールパネルと吹き抜けでつながっている。大きな照明や、今まで出さなかったが響き渡るグランドピアノもある。
まるでのんびりとした別荘のようだ。
この宇宙船「TB-Sα」があれば、家なんかなくても十分生活していけるだろう。
たとえ地球に隕石が降り注いできても、とっとと発射すれば助かる。
そして罪悪感というものがきっちり役目を果たしてくれるだろう。
そんなこんな話をしていると、ファットはやっとの思いで上階のコントロールパネルへ到着。20段ぐらい登るだけだが、何故か息が荒かった。
小指の呪いがまだとけていないのではないか。
「ファットさーん!!リモコン上から投げてきてー?」
「できるかおバカ」
マーシェルのボケがまた発動した。ここ最近頻発していて何かの前兆かもしれない......。と思う人などは、いない。そんな余裕はない。
「ファットさん。どう? フェーズきっちり作動している?」
ざっと心配そうな雰囲気とすっと冷静な心持ちでルーカスは聞いた。
そしてその声が耳に入るとファットは巨大なコントロールパネルから、FEDSのランプと設定ボタンを探し始めた。
「えっと......どれどれ。あっ、これか。ポチっとな」
ボタンを押すと同時に
《ゴオオオオオオオオオオオオングルルルルルルルル》
「ただいまより、冷房18℃で運転を開始します。」
すると大きな冷気を作る機械が、彼女たちが居る部屋の後ろから登場してきた。
「へ??寒いわよ!!そのボタンじゃない!!!ファット、止めて!」
「寒いわ!!あんたのダジャレみたいに!!!」
マーシェルはルーカスに紛れてしれっと彼に悪口を吐いたが、どうやら気付いていないようだ。
「あっ!ごめんごめん今止めます!!!」
もう一度、そのスイッチに手をやった。そわそわと焦りを隠しきれずに。
改めて、スイッチを探すファット。
「うーんと、このボタン。ではないな。どれだろう??」
彼がずっと困っていると、いきなりガイドがコントロールパネルのスクリーンに姿を現した。
「音声認識システムです。スクリーンに向かってお話しください。」
ピコン♪
「あ、えっと......フェーズの場所教えて?」
......ピコ♪
音声認識が完了した。
すると広くて10人くらい入りそうな長さを持つコントロールパネルの一部がチカチカと点滅し始める。今思うと非常に便利な機能だ、この宇宙船に対しては......。
点灯したスイッチは探していた場所とは全く違った逆方向だった。
「よしよし、これか。たしか......スイッチの上にある、ここのランプがついていたら正常だよな......どれどれ............ん?」
―――――――――――――――――――――――
そんなこんなで一行は帰路へ向かおうとする。
まだ大きな災難が降り注ぐことを知らない三人はどこか、のんびり余裕を持った顔つきだった。
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