のらりくらりⅠ

 宇宙船は動き続ける。

 

 彼らが乗っている限り。なにも感情を表すことなくずうっと、すうっと......。

 

 広大で、自分の居場所さえ分からなくなるような場所だここは。


 だったら歌でも歌ったら......?そうだ、歌を歌おう。どうせ暇だし。

 

 


 ドタバタな三人を覗いてみることとしよう。




「海は~ひろいなぁ~おっきい~なぁ~♪」


「バーチャル空間でも見ているのかな?」


 マーシェルの何気ない歌にも反応したファット。

 なかなかに疲労しており、彼女の嫌味を言うことによって、彼女からもらったストレスを彼女で発散する。


 こんなことになるのも、彼女の性格にある。


 マーシェルも気が強いのか、自分がやろうとしたことはすべて諦めずにやりこなす。

 これは文章で表すとメリットだらけに見えるが、物理的に辞めさせないと彼女は諦めないということでもある。

 これが協調性に欠けていたりする。



 自分を出す。表現する。と言ったら綺麗に収まるであろう。


「......この宇宙船、やっぱり遅すぎじゃない??行きよりも遥かに遅いわよね。FEDSはきっちり作動してるのかしら。」


 のほほん気分とイライラ気分とはまた違う、まるでそこだけ静音モードにしたかのような声で誰かに喋っているのか、はたまた窓に向かって呟いているのか。


 ところでいま、FEDSって何だ?とこのストーリーの続きよりもソレが気になる人のために軽く説明をしよう。



 FEDS《名称:From Earth Distance System》端的に言うと「地球からの距離を正確に測るシステム」だ。大体の宇宙船には取り付けられており、何故かこの弱そうな宇宙船にもついている。



 距離を測るシステムは他にも「衛星惑星及び恒星の到達距離計測システム」というのもあるが、明らかに違う特徴を二つは持っている。


「リアルタイム追跡」か「データ保存」かの違いがあるのだ。


 地球以外の衛星、惑星や恒星は確実な座標を出す......というよりは、地球から星を見るとこんな動きをしているな、だからこの星の位置は物理的に考えてこうなるだろう。


 といった具合にして、データとしてこの宇宙船に保存される。これは各々の星に観測基地がないからだ。火星などはいまやっとのことでプロジェクトは進み始めている。

 ちなみに火星移住はすでに成功している。この話も足してデータの話はまた今度。


 そしてFEDS。フェーズと呼ばれるこの機能は、地球の座標や太陽との距離がはっきりと分かるようになった。隕石の接近情報も数十年前からの検知が可能に。


 温度予測だってほぼ100%の確率で的中する。



 このように300年でまた天文学は変化を遂げた。



 この話はまた置いといて、会話に戻ることとしよう。




「FEDS?あー。あれか。ちょっくらコントロールパネル見ないと分からないや」


「頼んだわね。ファットさん」


 ファットという男は......まったく、人に好かれているのかただの召使いなのか。


「なんで、俺が見に行かないといけないんだよ。対してルーカスもなんにも俺に対して............」


 声が上手い具合に小さくなると階段を登ろうとする。



「......正直なところルーカスもきゃあああああああああああ!!!!!いってええええええええ!!」



 足の小指が階段の柵柱へヒット。



「あぁ、足の小指やらかしたなこりゃ」


「あぁ、私の悪口言うからよ」



 マーシェルとルーカスは同時にバチが当たったんだろうと、ルーカスは少し申し訳なさそうに、マーシェルは他人事でそっと声を送った。

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