丹堂妙乃様へ。

 拝啓。葉踏み鹿が山の中を散歩する季節になりましたが、妙乃さんはいつも元気で風邪とは無縁に見えて、ほっとしています。

 先日のお手紙を読みました。私のような面白みの薄い人間を好いてくださっていると知り、面はゆいやら、戸惑うやらです。

 正直に言うと、私は妙乃さんに恋心を抱いているかどうか、わかりません。

 未言を語り合う友人としては、とても好意を抱いています。これからも未言に関することを教えて差し上げたいですし、妙乃さんが見付けた未言を聞きたいです。

 しかし、未言以外で妙乃さんのことを考えても、途端に何も分からなくなります。

 私はこれまで、一度も恋をしたことがありません。

 恋人がどんなことをするのか、小説やドラマの知識がありますが、それを実践したいと思ったことがありません。

 それでも、妙乃さんが隣にいる時間は、幸せを感じるのは確かです。

 その幸せが、恋愛なのか、それとも未言を話す相手いなかった寂しさの反動なのか、まだ判別が付きません。

 私の内心はこんな状態ですが、それで妙乃さんを待たせてしまうのも、心苦しいと思っています。

 こんな自分の気持ちの答えが出ていない私を許してくださるなら、私はもっと妙乃さんと多くの時間を共にしたいと思います。

 取り留めがなく、申し訳ありません。もし気に食わなければ、明日にでも私の顔を殴ってください。敬具。

 三栗隆文


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