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 妙乃は、今日図書館に行った時に隆文から借りた本を開きました。

 それは詩集で『添音そおと』というタイトルの、今も出版されている本でした。添音とは、未言であり、音楽用語でいう『倍音』というものと同じだそうです。

 その本は、今では珍しい未言を中核にしている書籍なのです。

唐夏からなつがぼくを許してくれる』

『それはやさしいさよならでさえ』

 妙乃は空気を震わせられない喉で転がすように、『添音』に収録された詩の一節を唱えます。

 唐夏は、許してくれるくらいにやさしいのだろうか、許されないことをたくさんしたぼくなのだろうか、やさしいさよならだなんて悲しいじゃないか、と妙乃の心の中でたくさんの反駁がうたぐんでは消えていきます。

 まだ隆文から、あの恋文の返事をもらっていませんでした。

 会話の中でもあの手紙に触れてくれませんでしたし、手紙もあれ以来一通ももらってません。

 けれど、妙乃は返事を急かそうとしませんでした。

 返事がほしいという気持ちを懸命に抑えて、なるべくなるべく、普段通りの態度で隆文に接しようとがんばっていました。

 お母さんに、自分の気持ちを伝えたなら、相手の整理がつくまでどっしりと構えなさいと言われたのも、確かにその理由の一つではあります。

 けれど、妙乃自身もまだ、と思っていました。

 それは、もしかしたら、が怖いから。

 それは、きっと、が頼りないから。

 一番大切な言葉を、自分の声で伝えられない自分の不誠実さに引け目があるから。

 期待は淡く、自信は曖昧で、不足ばかりが積み重なっているようで、それでいて、想いばかりが強く煩く熱く切なく恋積こいつもるのです。苦しくてたまらなくて、嬉しくてままならないのです。

 妙乃は、唐夏の詩で胸を満たされていたのをどうにか消化して、またページをめくりながら読み進めます。

 さらさらと文字を目に映して脳に飲み込んで咀嚼しながら、次の文字をまた目に映して、秒の間にページが流されていきます。

 そうして、詩集の半分のさらに半分まで辿り着いたところで、妙乃は本におかしな厚みがあるのに気付きました。

 なにか挟まっているようですが、読みかけで差したままにした栞にしては、厚みがありすぎます。

 妙乃は、今読んでいたページに右手の人差し指を差し込んで、その厚みが差し込まれたページを開きました。

 そして、一通の手紙を見付けたのでした。

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