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 隆文の返事を読み終えて、妙乃はこてんと首を傾げました。

 そして、声もなく笑い、お腹を痙攣させます。酷く笑うとお腹が痛くなるというのを、妙乃は初めて経験しました。

 だって。だってだって。

 小説やドラマで恋人がすることの知識はありますだなんて。それで、自分がそうしたいと思った人はいませんだなんて。

 なんて、おかしな人なんでしょうか。

 隆文はもう、妙乃と、小説やドラマで恋人がするようなことを。

 デートをもう何回もしているというのに。

 妙乃は、その無自覚さがおかしくて、おかしくて、笑いが止まりませんでした。

 目淵まぶちで粒になった涙を拭って、妙乃は決意しました。

 これは、隆文のためにも、早く彼の想いを自覚させなくてはいけない、と。

 そのために、明日からは遠慮なくやりたいようにスキンシップを取ってやろうと、笑ってお腹を痛めた腹いせに絶対そうやって困らせてやろうと、妙乃は今ここに決意したのです。

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