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司書さんに手紙を渡してから二日の後に、妙乃は胸が満ち足りた想いで、図書館へやって来ました。
今日は完成した絵を持って来たので、司書さんに見てもらおうと考えているのです。
褒めてもらえるかな、褒めてほしいなと、期待と心配で心臓をどきどきと高らかに鳴らして、妙乃は家から十数分の道を踏破したのです。
図書館の自動ドアをくぐり、ひんやりした空気にほぅと息をついて、それから吸い込んで肌だけでなく肺も冷やそうと試みて、吸い込んだ分だけの空気をまた長く長く吐き出しました。
そうしてやっと、妙乃は図書館の中を見渡します。
まず視線を置いたのは、図書カウンターですが、そこに司書さんはいませんでした。
残念と眉を寄せて、妙乃は書架に向かって歩き出します。
妙乃の背丈よりも遥か高くまで伸びる本棚の通りを、横切る度に覗き込んで、妙乃はあのがっしりとした体格を探します。
そういえば、司書さんは司書という事務職なのに、なぜだかしっかりと筋肉がついていました。本を運ぶのに自然と筋力がついたのでしょうか、それともなにか趣味でスポーツをしているのでしょうか。妙乃は、少し気になりました。
「こんにちは」
後ろから不意打ちで挨拶されて、妙乃は肩をびくりとすくませて、ひぅ、と息を切るように吐いてしまいました。
「あ、驚かせてしまいましたか? すみません」
妙乃の反応に気遣いの言葉が続きました。穏やかな口調と声は、妙乃が探していたあの司書さんのものに違いありません。
妙乃は自分が勝手に驚いたくせに、頬を膨らまし、半眼になって後ろに振り返りました。
その表情に、司書さんは申し訳なさそうに頭を下げます。司書さんは少し、腰が低すぎる気もします。
「驚かせてしまったお詫びではないですけれど、あなたに見せたい本があるんですよ」
むくれる妙乃を宥めようと、司書さんは図書カウンターの裏に回り、一冊の本と中身の入った封筒を妙乃に手渡しました。
「あー、その。恥ずかしいので、家で読んでもらえたら幸いです」
それは、本の方ではなくて、手紙の方の話でしょう。
妙乃は何度か目を瞬かせながら、手の上に置かれた本と封筒を見詰めてます。
そして遅れて、司書さんの顔を見ると、司書さんは意味もなく窓の外を見て、妙乃に目を合わせようとしてくれませんでした。
その様子に、妙乃は声もなく、喉の奥で笑ったのです。
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