第2話
急いで制服に着替え、登校の準備をする。
自分で作った朝飯を胃に収め、食器は洗い場に置き器に水をためておく。
こうすると食器を洗う時にご飯粒が乾燥して引っ付くことがないのだ。
「さて……」
これまた自分で作った弁当を手に取り、隣でいまだにいやらしい笑みを浮かべる『鬼畜執事と猫系王子』に目を向ける。
「昼ぐらい抜いても大丈夫じゃないか」
一瞬そう考えるが、今朝の紅花との攻防を思い出す。
あれが教室で起きるとなるとどうだろうか。
暴れる妹、逃げ惑うクラスメイト。
怪我だけならまだいい、その内治るだろう。
しかし。
「また学校に行けなくなるかもしれないよな」
暴れてしまったクラスでの居心地はかなり悪いだろう。
それに、俺以外を襲ってしまうと、怪我以外の問題が出てくる。
「しかし、こんな本見つかったら俺もクラスでの居心地かなり悪くなりそうなんだけど……」
想像し頭を振り打ち消す。
学校の安全のため、かわいい妹のためやるしかないのだ。
「よし、行くか」
そういうと、『鬼畜執事と猫系王子』を紙袋へ入れ、学校へ向かうため家の玄関を開ける。
今日は快晴、とても気持ちのいい朝だった。
「……やっぱり、本置いていこうかな」
先ほどまでの決意は揺らぎまくりであった。
『鬼畜執事と猫系王子』をカバンの奥底に沈め、カバンがひったくられても大丈夫なよう最大警戒で学校への道を進む。
油断は即死につながる、もちろん社会的、というかひどい誤解を受けることになるのだが。
「おー創! おはよう」
後ろから突然名前を呼ばれたため、カバンを抱きしめて振り向く。
さっそく襲撃者か!?
「……どうしたんだお前、そんなびっくりすることないだろ」
声の主を確認すると、同じ2年生の片桐攻樹だった。
長身で鼻筋もすっと通ったイケメン顔が怪訝な眼をこちらへ向けていた。
「お、おはよう攻樹、いい天気だな」
警戒を解き、挨拶を返す。
「なんだよ、なんで警戒してんだよ傷つくだろ~」
そう言うと、肩に手をまわしてスキンシップをはかってくる。
「ちょ、今日は、今日だけはやめて! 二重の意味でヤバイ!」
「はぁ? どういうことだよ」
攻樹の回した手が噛まれた肩に当たり正直かなり痛い。
あとカバンの中身がポロリしてしまうことが怖く一刻も早く離れてほしい。
カシャ。
突然のシャッター音に目を向けると、そこには小柄な女の子が立っていた。
短い髪は肩口で切りそろえられたボブカット。
朝日を反射しキラキラとした目は、逸らせなくなるほど魅力的。
「おはようございます、創先輩。 ……も~朝からお兄ちゃんとイチャイチャしちゃって~仲がいいんですから~」
その後も何度もスマホで写真を撮る。
前言撤回、目は朝日を反射して輝いていたわけではなく、己の好物を目の前にキラキラ輝いていたようだった。
「おい柚理、写真を撮るのを止めろ、あとイチャイチャとかしてない、というか攻樹もポーズ決めてないで妹のことを止めろ! 」
攻樹と、攻樹の1つ下の妹である柚理に叫ぶ。
「も~照れなくていいのに~、良いじゃないですか友情を越えてしまった禁断の愛! 妹として応援しちゃいます! 」
鼻息荒くまだシャッターを切ろうとする柚理。
お気づきかと思うが、こいつも腐女子である。
腐女子には様々なタイプがいる。
今回は次元に限ったタイプの分け方について説明する。
まず2次元。
一般的な腐女子のタイプであり、創作物から2次創作、イラスト、漫画、小説と幅広い。
そもそもBLではない作品でもBLとして楽しめてしまう、強者が集う次元だ。
続いて2.5次元。
これは、漫画などのキャラクターをイケメン俳優が演じる。
話自体もミュージカル風にアレンジされており、そもそもの話はBLではなく、演劇として楽しめる内容になっている。
しかしそれもBLとして楽しめる強者が集う次元である。
そして3次元。
ドラマや映画、はたまた日常の知り合いでカップリングを考える。
もちろん、そもそもBLではないことがほとんどだろう。
しかしそれもBLとして楽しめる強者が集う次元である。
……要約すると、どの次元も強者ばかりなのだ。
「って、いい加減にはなせ!」
説明が終わったところで、いまだに腕を絡める攻樹剥ぎ取る。
力強い腕と、清潔な石鹸のにおいにドキドキしたりはしていない。
「おっと、すまんすまん」
悪気なさそうに謝る。
「お前もシャッターを切るのをやめろ」
そういってレンズに手の平を向ける。
「は~い、すいませ~ん」
柚理はしぶしぶといった感じでスマホをポケットにしまう。
腐った兄の創り方 コーノス @ko-nosu
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