オリジン・アリス
次の日の朝。昨日の大雨とは打って変わり、空は晴れ渡っていた。一行はすぐに支度をして出発した。ギャンブルの街を出てからほどなくして、大きくそびえたつ塔の屋根が見えて来た。一行は、塔の屋根の姿を頼りに進んだ。到着するまでに、それほど時間はかからなかった。
城というよりは、大きな塔が1つだけあるような質素な建物だった。建物は付近の地面に生えた雑草が大きく育ってはいたが、建物そのものはそれほど年季が入っていない、比較的新しいものに思えた。まるで、オリジナルアリスを閉じ込めておくためだけに作られたもののように、フィアには感じられた。
「お城の最上階、そこにお姫様は囚われていることが多いですわ」
アリスが言う。ルクアが苦笑して、付け足した。
「まぁ今回はお姫さまじゃなくて、物語の主人公なんだけど」
周りを見渡すが、確かに警備をしていそうな敵は一人も見あたらなかった。フィアは、不思議そうに言った。
「ギャンブルの街からそう離れていない距離にあって、城の姿は割と遠くからも見えるような立地条件ですけど、本当にここを訪れる人って少ないんでしょうか……」
「不気味だよね」
ルクアが言った。しかし、ティアシオンが勢い込んで言う。
「どーせ、城だから白の女王や、ハートの女王の城だろうと思って近づかなかっただけだろうぜ。さっさと救出してしまおう」
そう言い残してさっさと城の入り口へと入っていく。フィアとルクアとアリスは互いに顔を見合わせると、ティアシオンに続く。ベンジャミンは、少しびくびくしながら後ろをついてきて、さらに後ろから警戒しながらランベイルが続いた。
塔の中は、螺旋階段のようになっていた。一行は、ゆっくり登っていく。そして、螺旋階段を登りきった先に、扉が1つだけ存在していた。ティアシオンがノックもなしに開けようとするのを押しとどめて、フィアはそっと扉をノックする。すると、部屋から声がした。
「どなた様? あら、そもそもどなた様という質問自体が野暮な質問かしら。どうせ、白の女王様の召使いさんに決まっているのだから」
フィアがそっと扉を開けると、そこには小学生くらいの少女がベッドに座っていた。金髪の長髪、水色のワンピース。その姿を見て、フィアは尋ねた。
「あなたが、オリジンのアリスさん……ですか?」
少女は、予想とは異なる人が部屋に入ってきたことで驚きを隠せない様子だった。ベッドから飛び降りると、部屋へ入ってきた大人5人を興味深そうに1人ずつ眺めた。
「へぇ、こんなところにお客さんがいらっしゃるなんて、驚きだわ。……あ、失礼な物言いだったわね、改めないと。いかにも、私が作者に生み出された、オリジン・アリスよ。私に何かご用?」
少女……――オリジン・アリスの言葉に、フィアが膝をついて彼女と目線を合わせながら答える。
「ここにいるのは物語修正師候補生と、それぞれと契約した物語の住人たちです。囚われたあなたを助けようと、ここへやってきました」
すると、オリジン・アリスは少し嬉しそうに笑った。それは、年齢相応の純粋な笑顔だった。
「そう、ついに助けがやってきたのね。今までの物語修正師候補生は、私のところへ辿り着くことなく散っていったわ。……もちろん、この城の近くまで来られた人たちもいたけれど、城を守る番人に返り討ちにされたわ」
「番人? そんなのはいなかったぜ?」
ティアシオンの言葉に、笑顔だったオリジン・アリスの表情が凍り付く。
「それは……まずいわ」
「まずい? どうしてですか? たまたま番人がいなかっただけとか……」
フィアの言葉に、オリジン・アリスは首を振る。
「いいえ、今まで番人がいなかったことはなかったわ。あなたたち、物語の中で城に閉じ込められた姫を助けようとした騎士が戦うものが何か、知ってる?」
オリジン・アリスはフィア、アリス、ルクアの方を見て尋ねた。ルクアはゆっくりと、確かめるように答える。
「……ドラゴンが多い、かな?」
「ご名答。……そう、この城も例外じゃないわ」
オリジン・アリスの声に呼応するかのように、地響きのような咆哮が辺りにこだました。窓がガタガタと音を立てる。そして、窓の外に外を飛ぶ大きな物体が横切った。
「まさか……、あれが、番人……ですの?」
アリスの問いに、オリジン・アリスは首を縦に振る。フィアは言った。
「とりあえず、外に逃げましょう。ここにいては、建物ごと焼かれておしまいです」
そう言って、オリジン・アリスの手を引いて走り始める。他のメンバーもフィアたちに続く。螺旋階段を急いで走り降りている間、建物全体が大きく揺れて、天井が崩れてきたりした。なんとか、螺旋階段を降り外へ出ると、大きな大きなドラゴンが、空から一行を見下ろしていた。
『オリジン・アリスを連れ出すことは許さん。こちらへよこせ。そうすれば命だけは助けてやろう』
「そんなこと言って、アリスさんを引き渡したら、さっさと殺すつもりでしょう! 渡さないですよっ」
フィアは大声でドラゴンに向かって言った。ドラゴンは気味が悪い笑い声を発して言う。
『それでは死ぬがいい』
ドラゴンは炎を吐いた。一行を守るようにして前へ出たルクアが言った。
「炎を防げる壁ができたらいいのに。私たちを守れるような」
すると以前と同じような形でルクアの前に土から壁が出現して炎から一行を守る。しかし、壁は一度で消し炭になってしまう。壁が壊された衝撃で、フィアたちはさらに後方へ飛ばされ、ルクアと一行の距離が広がる。壁が一瞬で壊されたのを見て、ルクアが驚愕の表情を浮かべた。呆気にとられるルクアに、ドラゴンはにやりと笑って言う。
『それでおしまいか? 物語修正師候補生も大したことがないな。しかし厄介だ、先にお前に死んでもらうとしよう』
それを聞いて、吹き飛ばされていたランベイルとティアシオンが戦闘態勢に入り、ルクアとドラゴンの間に割って入ろうと走り出す。ドラゴンはルクアに向かってもう一度炎を吐く。ルクアが新たに壁を作成するものの、炎の衝撃でもろくも崩れ去る。それを確認した後、ドラゴンは急降下して、その長い爪でルクアに襲い掛かった。大きな土煙が上がる。ランベイルとティアシオンは、土煙が上がっている場所の手前で立ち止まった。
土煙が収まると、そこにはドラゴンの姿のみがあった。ドラゴンは低い声で言う。
『おかしい。爪でひっかいた感覚はあったぞ……。なぜ死体がない?』
すると光の玉が複数、ドラゴンに向かって発射される。ドラゴンは再び空へと舞い上がってそれらを軽々と避けてしまう。ほぼそれと同時にティアシオンとランベイルの隣に、2人の人物が降り立った。フィアが目を凝らしてみると、そこにはルクアと番傘を構えたトゥルーが立っていた。
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