お菓子の街の看板

 三人は、なんとか街にたどりついた。街の入り口には、看板が立っている。

『不思議なお菓子を作る街。お菓子好きな方はぜひ立ち寄って!』


「変な形の看板ですわね。読みにくいですわ」


 アリスが腰に手を当てて偉そうに言う。ルクアはその脇を通りすぎて、看板をまじまじと見つめる。そして、急に目を輝かせて勢い込んで言う。


「おー、すごい! この看板、枝チョコをくっつけて看板作ってる!」


「チョコなんかで看板を作るはずがありませんわ!」


 そう言いながら、アリスも再び看板をまじまじと見つめている。


「文字もお菓子でできてる、すごい!」


「観光客には人気だけどな、こっちは毎日毎日作りかえなきゃいけないんだよ」


 看板からひどく不機嫌な声がかかる。


「看板の妖精さんが、毎日貼り替えてる……?」


フィアの声に、ルクアが笑って言う。


「残念ながら、妖精さんみたいなファンタジーじゃなくて、リアルな話みたい」


そうして、看板の下を指さす。看板の下には小さな小屋が立っており、そこから一匹のネズミが顔を出している。


「たまったもんじゃない。毎日毎日、ずる賢いカラスや、意地汚いハトなんかが看板を食い散らかしやがるんだ。こっちはそのたんびに、文字やら看板を補修しなきゃならねぇ。普通の木材で作ってくれりゃ、オレがこんなに苦労することなんてなかったのに」


「それは……かわいそうに。なんとかしてあげられないかな」


 怒った声で言い散らすネズミにフィアが膝をつき、できる限りネズミに目線を合わせ悲しそうな声を出す。


「こんな生活、オレはもう嫌だ! いつか物語修正師に会ったら頼むんだ。オレの職業の変更と、看板の作り替えをな!!」


「物語修正師ならここにいるけど……、わたしたちにできるのかな」


 フィアは、不安げにルクアを見つめた。その言葉を聞き、ネズミが嬉しそうに言う。


「アンタら物語修正師なのか!? それなら話が早い! オレの職業を変えてもらいたい。そして看板自体を作り替えてほしい」


「物語修正師ではなくて、物語修正師候補生の資格を持った者……なんだけどね」


 ルクアの言葉は、ネズミの耳には届かない。フィアは、銀髪の少女からもらった本を開く。そして、登場した銀髪の少女に向かって言う。


「物語の住人さんが、自身の職業を変えたいと申し出てきているんですが、物語修正師の権限で、そんなことって可能なんでしょうか。可能なら、お手伝いしてあげたいんですが」


 フィアの勢いに押され、銀髪の少女は戸惑いながら答える。


『可能は可能だけれど……』


「それじゃ、そのやり方を教えてくださいっ」


 勢い込むフィアを止めたのは、ルクアだった。


「……その選択、現時点では賢明とは言えないと思う」

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