決意の先に

 フィアは少し不安になりながらルクアたちが先に歩いたであろう、でこぼこの道を走る。行き先は上り坂になっていた。フィアは懸命に走り、頂上にたどりつく。周りを見渡すが、人気はない。


 フィアは考える。やっぱりホワイト一緒に行くべきだっただろうか。いや、そんなことはない。きっと近くにいるはずだ。フィアの心臓は、バクバクと脈打っている。急に運動したからという理由だけでない、焦りと不安。それがフィアの体中の体温を奪う。


「……来たね、フィア。待ってて正解だったよ」


「まったく。待たせすぎもいいところですわ。元の世界に帰ったら、おいしいパンケーキを奢ってもらいますから」


 不安げに立ち尽くすフィアの背中に、聞き覚えのある声が届いた。振り返ると、そこには静かに微笑むルクアと、何か言いたそうな表情をしたアリスが立っていた。


「自分で選択できたんだね、自分の道。偉い偉い」


 ルクアは背伸びをして、フィアの頭をなでる。フィアは、普段そんなことをされることがないため、どうしてよいかわからずうろたえた。ほんのり頬だけが赤く染まる。


「あ、でも自分で選択したからには自分の選択に責任もってね。あとで文句言われても、私は責任取らないから」


 ルクアが念を押すように言う。アリスは、ルクアに向かって言う。


「あら、あたしも選択しましたわよ? あなただけじゃかわいそうだから、ついていってあげようという選択。なでて下さっても構いませんわ」


 アリスはそう偉そうに言いつつ、頭をルクアに向かって突き出す。ルクアは呆れた顔をする。しかしまんざらでもなさそうに言う。


「えー、アリスもなでるのー? 仕方ないなぁ」


 そして髪型が乱れるくらい荒く、わしゃわしゃと小さな手でアリスの髪の毛をかきまぜるようにしてなでる。


「ちょっと!? もう少し優しくなでるのですわ! 髪が乱れますわっ!」


 アリスが少し不服そうに言う。しかし頭をどけないところを見ると、それよりも撫でてもらえることの方が大事なようだ。


「問題はこれからどうするか、だよね」


 ルクアは言って、銀髪の少女にもらった本を開く。


『行き先は、自分たちで決めてもらわないと困るわよ。考える力を養うのも、物語修正師の大事な仕事ですからね』


 銀髪の少女が出てきて言う。それから少し首をかしげて三人に聞く。


『それよりさっき、誰かと遭遇しなかったかしら? 本が閉じられていたからよく分からなかったのだけれど……』


 銀髪の少女に、アリスが答えた。


「白の女王……、ホワイトという方にお城に来ないかと誘われましたわ」


 それを聞いて、銀髪の少女の表情が一瞬凍り付く。しかしすぐ、いつもの表情に戻る。


「……そう。でもあなたたちは一緒に行かなかった。そういうことだわね?」


 三人は頷く。銀髪の少女は、微笑んだ。


『あなたたちの物語の旅路に、物語の神の祝福があらんことを。……それじゃあ、あたくしから一つだけアドバイス。ここから一番近い街は、この道をまっすぐ行った先にある。日が暮れる前に街に到着して、物語修正師をタダで泊めてくれる心優しい物語の住人を探しなさい。あたくしが今教えられることは、それくらいだわね』


 ルクアは、銀髪の少女に礼を言って本を閉じる。そしてルクアは笑顔で言った。


「それじゃ、頑張って歩こうか」


 ルクアの重い荷物を持ちながら、三人は、道なりに進み始めた。三人の進行方向に街が見えてくるまで、そこまで時間はかからなかった。

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