赤の集団と白の集団
赤い服に身を包んだ集団は、ルクアたちを見つけると、あっという間に三人を取り囲んでしまった。焦る三人に、集団のリーダーと思しき男がにじり寄ってきて言った。
「おいお前たち! ここがハートの女王様の庭と知っての行動か。万死に値するぞ!」
「すみませんっ!! そうとは知らなかったんです!」
「あたしたちは、物語修正師なのですわっ! この世界のことはよく知らないのですっ」
フィアとアリスが口々に叫ぶ。ルクアは、溜め息をつきながら小声で悪態をつく。
「そんな簡単に、自分たちの正体を明かしちゃ、まずいでしょ……。そもそも、物語修正師候補生の資格を持った者、とは言ってたけど、物語修正師ではないし……」
アリスの言葉を聞いて、赤の服の集団の顔色が変わる。明らかに、悪いことを考えている表情だ。リーダーらしき男は、ニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべながら言う。
「そうか、お前たちは物語修正師なのか。それなら、話は別だ」
「よかったですわね、あたしたち助かりましたわよ」
アリスが安堵の声を上げた。それと同時にリーダーらしき男が高らかに言う。
「お前たちを拘束させてもらう! 物語修正師と契約すれば、オレたちは、このワンダーランドで一番の戦力を持てるだろう」
それを聞き、他の赤の集団の人々も歓声を上げる。
「契約? 何の話ですの?」
アリスが動揺した声で言う。リーダーらしき男は言う。
「物語修正師と契約を交わす。それこそが、物語世界でのし上がる最短のルートだ! お前たちには、オレたちのキャリアアップの手助けをしてもらう! こんな仕事、もうおさらばだ!」
そう言って、リーダーらしき男は一番手近な位置にいたルクアの手を引っ掴もうとする。ルクアはそれにいち早く気づき、身体をそらそうとした。しかし、間に合わなかった。体の向きを変えたルクアの反対の手を、男が掴む。
すると、ルクアと男の手の間に紅い電撃のようなものが迸った。男が悲鳴を上げ、ルクアの手を放す。ルクアは一瞬握られてしまった手を、汚いものに触れてしまった時の表情で見つめる。
「おいお前! 今の電撃は何だ! そんなものが使えるなんて聞いてないぞ!」
「言った覚えもないし、そもそも魔法なんて使えないし。……ただの静電気でしょ」
この世界の静電気って、私たちの住んでる世界より数倍痛そうだね、そんなことを言いながらルクアは、困った顔をする。
「けど、根本的な問題解決にはなってないよね……。どうやって、このピンチをくぐり抜けよう?」
ルクアの言葉に応じたかのように、別の場所から声が響いてきた。
「そこまでです。白の女王の御名において命じます、すぐにその少女たちから離れなさい」
声がした方を、赤の集団が振り返り、三人を取り囲んでいた集団の輪が一部崩れる。崩れた部分から見えたのは、赤の集団とは正反対と言える、白の衣装に身を包んだ集団だった。赤の集団が身に着けていたものは、現実世界ではTシャツと呼ばれるようなものやワイシャツなどだったが、白の集団が身に着けているのは、もっと高価そうなものだった。
ラフな格好の赤の集団と、ロングコートのようなデザインのものや、シャツの上に洒落た上着を着たりしている白の集団が向かい合うと、とても違和感があった。
赤の集団は、白の集団を見て明らかに動揺している様子だった。赤の集団のリーダーらしき男を筆頭に、赤の集団はじりじりと後退する。
「白の女王!? 本物か」
「まさしく。わたしが白の女王ですが、何か?」
白の集団から前へと進み出たのは白のドレスに身を包んだ、20代くらいかと思われる年頃の女性だった。女性は、淡々と言う。
「あなたたちのことは、聞いています。物語修正師を探して、この辺り一帯をうろつく山賊。早々に退散するのなら、ここは見逃して差し上げましょう」
「くそっ! ……ずらかるぞ、こんなところで捕まってたまるか」
悪態をついて男が言うと、赤の集団は、蜘蛛の巣を散らすように去っていった。女性は、赤の集団が逃げ去った後、近くにいた部下と思われる一人に声をかける。
「追いなさい、すぐに。今なら、一人か二人くらい捕らえられるでしょう」
「全員捕えても構いませんよね、女王様」
「もちろん、構いません」
約束を守らないのか、と声をかける者は集団の中にはいないようだった。女性の言葉に、集団から十数人が進み出て、赤の集団を追跡するため離脱した。
女性は、唖然としている三人に向き直ると、にっこり微笑んで言った。
「ようこそ、ワンダーランドへ。歓迎しますよ、物語修正師のお客人」
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