二人の客人
栗色の髪の青年の気持ちよさそうな寝顔を、しばらく二人の人物は眺めていた。一人は、真紅の高そうなコートを身にまとった青年だった。年は20代くらいだろうか。コートと同じくらいに紅い髪は、左右で長さが異なっていた。長く伸ばした方の髪を耳にかけながら、赤髪の青年は自分の斜め向かいに腰掛けているもう一人の人物に声をかける。
「なぁ」
声に反応して、もう一人の人物がティーカップから顔を上げる。フードを被っているため、表情は全く読めない。しかしフードの中の闇に、金糸雀色の瞳が仄かに光っている。
「あの本って、オレらでも読めるんかいな? ……ちょっとくらい触っても、どうもならへんよな」
端正な顔立ちからは想像できない関西弁が、赤髪の青年の口から飛び出る。赤髪の青年の問いにフードを被った人物は答えない。赤髪の青年は、肩をすくめると席を立つ。そして、上座側に座って眠りこけている栗色の髪の青年の方へ歩き出す。
その時、風に乗ってフードを被った人物が発した声が赤髪の青年に届く。
「……何が起きても、助けないからな」
静かだが、凛とした青年の声だった。その声色に一瞬、赤髪の青年がびくっと肩を震わせた。しかしすぐ開き直る。
「こんな本触ったくらいで、何も起きへんわ。オレを誰やと思ってんねん」
半ばやけくそ気味に言って、赤髪の青年は栗色の青年の手から、赤い大きな本を取り上げた。すると、ビリビリとすごい音がしたかと思うと、本から火花が散った。
「イタッ!? え? なんなん、なんなん!? ビリビリのびっくりオモチャ的なヤツ!? めちゃ痛いんやけどっ」
赤髪の青年が慌てて本を手放す。
「……言わんこっちゃない」
フードの青年がため息とともに呟く。本はテーブルの上に表紙を下にして落ちた。それと同時に、ぽふん、という音がしたかと思うと、元々あった本よりは少し小さいサイズの、同じ表紙をした本が生まれた。新しく生まれた本には、手と足が生えている。
「うわ、気持ち悪っ!? 勘弁してーな、そういうの普通ナシやろ。素敵な素敵な、メルヘンチックな物語には不釣り合いやから、すぐご退場願いますー」
赤髪の青年が冗談半分、真面目半分といった表情で言うと、新しく生まれた本が赤髪の青年を指さし、そして自分を指さした。
「え? 何? 自分、オレに読めって言ってる? ……勘弁して―な、ホンマに」
嫌がる赤髪の青年の手の上に、勢いをつけて本が乗っかる。
「イタッ! 分かったって、読めばええんやろ、読めば!! 分かったから、どいてっ」
赤髪の青年と本がじゃれ合っている間、フードの青年は一人と一冊のことなどおかまいなしに、静かにティータイムを楽しんでいた。
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