暗いお茶会場

 ところ変わって、薄暗い森の中。黒い木々が生い茂る中大きく拓けた場所があり、そこに大きな大きな長テーブルが並んでいる。


 長テーブルの傍には、たくさんの椅子が置かれている。ハート型の椅子、ダイヤ型の椅子、スペード型の椅子、クラブ型の椅子。その他にも、様々な形の椅子が並んでいる。一つとして同じデザインの椅子は存在せず、色もまちまちだ。


 長テーブルの上には、たくさんのティーカップ。これまた様々な種類のものが置かれ、目に眩しい。ティーカップの中身は、空のものもあれば、不思議な色をした液体が残ったままのもの、なぜか青空と雲が映ったものまである。


 ティーカップやティーポット以外にも、お菓子のたくさん入った籠や、果物の入ったガラスの入れ物などが所せましと並んでいる。

 どこかの国のアフタヌーンティー用の入れ物、『不思議の国のアリス』の作者が生まれた国ではアフタヌーンスタンド、ケーキスタンドなどと呼ばれている入れ物の上に、スコーンや様々なお菓子がのっている。


 その場所で、二人……いや三人の人物が席に座っている。


 その中の一人に、栗色の髪をした眠たそうな表情をしている青年がいた。彼は大きな大きな赤い本を持っている。青年はとぎれとぎれに、本の内容を他の二人に聞こえるように読み上げる。


「……また物語修正師候補生の資格を持った者たちが、ワンダーランドの世界へ、やってきた。……風の精たちが噂をする。それを聞いたワンダーランドの住人たちは、口々に言う。

『またやってきたのか、どうせ無駄だろう』


 と。また別の考え方の住人たちは言う。


『いやいや、今度こそはなんとかしてくれるかもしれない。ワンダーランドに光を灯す存在となりうるかもしれない』

 

 と。ワンダーランドの住人たちの会話を耳にした、今のこの世界を形作る長は、ほくそ笑む。


『この世界の均衡を崩せるものなど、存在しない。なぜなら、わたしは最強の武器を手にしているのだから』


 薄暗い世界に、今日も怪物の足音が鳴り響く。怪物は、長が嫌う者たちを狙い、そして食いつくさんとする。はたして此度の物語修正師候補生の資格を持った者たちの召喚は、ワンダーランドの光となりえるか、それとも闇となりえるか……、それは誰にもわからない」


 そう締めくくると栗色の髪の青年は、うとうとし始める。その様子を見て、栗色の髪の青年からかなり離れた位置から青年の言葉を聞いていた残り二人の人物が慌て始める。彼らは、自分たちの食べたり飲んだりしていたものを栗色の青年とは反対側へよけ始める。


 ほどなくして栗色の髪の青年はテーブルに載っているティーカップやティーポット、茶菓子をなぎ倒しながら、眠りの世界へ落ちて行った。


 あとには、大きくため息をつく二人の人物のみが残される。

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