落ちる最中に

 三人は、同時に一点を見つめた。視線の先には、先ほどの銀髪の少女が立っている。立っている、というよりは宙に浮いている、という方が正しいかもしれない。


 しかし先ほどの彼女とは違い、身体がまるで透明であるかのように、彼女の向こう側のものが透けてみえている。


 銀髪の少女の姿を見て、アリスは青ざめた表情で言う。


「きゃぁっ! 幽霊っ!?」


 ルクアはまた布団にもぐりこんで、くぐもった声で叫ぶ。


「浮いてる!? 落ちる!?」


 すると銀髪の少女は、くすくすと笑いながら言う。


『残念、どちらも不正解。……今のあたくしは、丁度あなたたちが普段テレビ番組や、動画で見る人物像に似ている。つまりは、この空間に映し出された虚像でしかないのよ』


 その言葉に、布団の中で震えていたルクアがまた、顔だけ覗かせて銀髪の少女を見つめる。フィアは、銀髪の少女の姿を上から下まで眺めた。そして、ルクアとアリスに向かって言う。


「……あの。この人、足があります」


 その言葉を聞いて、ルクアとアリスがほぼ同時に安堵の表情を浮かべる。


「幽霊かと思いましたわ。……ややこしい真似はしないでほしいのですわ」


 つん、と澄ました表情に戻ったアリスの言葉に、銀髪の少女はふふっと微笑む。


『あら、ごめんなさい。……さて、時間がないから簡潔に伝えるわ。今あなたたちに何よりも必要なのは、情報であることは言うまでもないわね? けれどあたくしには、必要な情報をすべて伝えることは難しい。だから』


 ここで少女は言葉を切る。すると、それを合図にしたかのように上から辞書のような分厚さの本が三冊降ってきた。フィアとアリスは、落ちてきたその本をなんなくキャッチする。ルクアは本の反応に気づくのが遅れ、本を盛大に頭でキャッチする。


 フィアとアリスは、悪いと思いながらも笑わずにはいられない。銀髪の少女も楽しそうに笑う。ルクアは頭を押さえ、半泣きの表情で本を握りしめながら少女をにらんだ。すると少女は、慌てて言う。


『その本に、必要なことはすべて書かれているわ。情報を集めたければ、それをしっかり読みなさい。それじゃ……健闘を祈るわ』


 そう言い終わって彼女の姿が消滅したと同時に、先ほどまで少女がいた場所にクッションが投げられる。あとには悔しそうなルクアと、静かに本を読み始めるフィア、中に書かれた活字を見て顔をしかめるアリスが残された。

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