金髪の少女
裂け目から落ちてしまったフィアはとりあえず、自分のベッドにしがみついた。隣ではルクアが、周りの景色を視界に入れないよう、布団をかぶっている。布団からは、彼女の小さな手だけが見え隠れしていた。手の色が変わってしまうくらい強く、ベッドの木枠をつかんでいる。
「神様仏様、お願いです。どうか落ちませんように! 怪我しませんように! 死にませんように! ……ここを無事に乗り切れたら、小説をちゃーんと毎日投稿して、ちゃんと完結まで導きますから! これからも欠かさず小説家になれるよう、努力しますから! お願い本当にお願い……」
「情けないですわね! ゆっくりとしか落ちていないから大丈夫ですわ! 布団から出て、どうしてこんなことになっているのか、あたしにも分かるように説明してほしいのですわ!」
ルクアのか細い声に呼応するように、彼女のベッドのさらに向こう側から大声が聞こえた。そしてルクアの布団の山に向かって、赤と黒のチェックのクッションが投げつけられる。
クッションを投げたのは、床に裂け目ができる前までフィアの左隣にあった、赤と黒のチェックの布団のベッドの主だった。
輝かんばかりの長く伸ばした金髪は、見るも無残に様々な方向にハネてしまっている。フランス人形のように整った顔立ちの小顔の少女は、先ほどの言葉で折角の美貌を台無しにしていた。
「早く出てくるのですわ! 情報を共有しておかなければ、危険ですわよ!? あたしだって不安なのだから、さっさと覚悟を決めるのですわ」
金髪の少女のキンキン声と、クッション攻撃についに降参したらしいルクアは、のっそりと布団から顔だけを出し、そのままのそのそと、布団をかぶったままベッドの下を覗き込む。
「……うわぁ。落ちているには変わりないけれど……。とてつもなくゆっくり。これなら大丈夫かな」
急降下とかしないといいけど、そう呟きながらルクアは布団から体を引き抜く。そして金髪の少女に向かって、少し照れくさそうに笑いながら言った。
「なんか、ありがとう。……とりあえず、助かった」
ルクアの声に金髪の少女は、少し顔を赤らめた。しかしすぐに顔をしかめ、
「まったく。……こんなことで動揺するなんて、頼りにならない人ですわねっ」
と偉そうに言った。けれどもルクアから目をそらし、片手だけをルクアの方へできうる限り伸ばす。きょとんとするルクアをよそに、金髪の少女は精いっぱい強がった声で言った。
「貴女さえよければ、その……っ。仲良くしてあげてもいいですわっ」
その手は、フィアから見てもわかるくらい震えていた。ルクアは少し驚いた顔をしたがすぐ笑顔になる。そして自分もベッドから精いっぱい体を伸ばして、金髪の少女の伸ばした手をぺちぺちと指先でビンタした。それからぎゅっとその手を握る。
「じゃあ、これからよろしくねー。私はルクア、あっちはフィア。……で、えーっと、あなたの名前は」
突然自分の名前らしいものを呼ばれ、フィアは驚きで肩を震わせた。金髪の少女はというと、一瞬、何が起きたか分からないといった様子で唖然とした後、瞳を輝かせる。しかしそれは一瞬のことで。すぐに、偉そうな顔に戻ってしまう。その表情のまま、そしてルクアの手を握ったままで言う。
「あたしの名前? あたしの名前は……えーっと、何だったでしょう。忘れてしまいましたわ」
それを聞き、ルクアがベッドのところに名前は書いてあるかと尋ねる。すると金髪少女は、
「ベッドに名前を書くなんて悪趣味なこと、あたしがするわけが……、アリス・マテリアとありますわ」
でももっと素敵な名前だったように思いますわ。そう言いながらアリスは首をかしげる。
『この世界では、それがあなたたちの名前よ。この世界から脱出するまではね』
突然第三者の声が聞こえ、三人はベッドから転げ落ちそうになった。
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