VSスライム②~魔物の力を操る覇者との決闘~
俺の言葉にアリアさんがピンク色のスライムになったライの元へ破竹の勢いで向かって行く。俺はその行動力に目を
「アリアさん! 何するんですか!? 勝てる可能性がないのに突っ込んでいくのは、危険極まりないです!」
その声は届いたよう。彼女は、こちらに顔を向けず、怒鳴り声で反論をした。俺はまた彼女らしくない言動に体を硬直させる。
「何言ってんのよ! こっちだって、異世界に来て慣れない戦闘繰り返してるんだから、ある意味縛りプレイってもんじゃない?」
あっ、そうだ。俺達、考えてみれば、女神に束縛されているような状態だった。相手だけが行動を縛って、頑張っている訳ではない。アリアさんも自分も似たような状況だったんだ。
彼女の言葉を受けて少しだけ
「おりゃああああああああああああ!」
掛け声と共にスライム目掛けて突進する。アリアさんを追い越し、スライムを踏みつけてみた。
スライムは俺の靴底にあった砂を吸収しているが、白くてかったまま。スライムは姿に衝撃を受けている俺の下から体に巻き付ていく。
「しまった!」
腰に付いたスライムは色々な影響を与えてくるだろう。ひんやりとした感触が気持ち悪くてたまらない。振り払おうにも強い力で離れない。このままスライムが身に
まさかとは思うが、有害物質を吸収していて、それを体中に放たれたら。一抹の不安に顔の熱が冷めていく。
ここは一気に攻撃して、相手を怯ませるしかない。
俺は咄嗟に地面に転がり、スライムを下敷きにする。相手の動きが止まった隙に体を起こし、何度か地面に打ちつけた。
「はあ……アリアさん! 魔法、お願いします! そうだ! 相手に魔法をもっと吸収させれば、体が重くなって、動きや攻撃が鈍くなるかもしれない」
俺の指示は地面に打ちつけた際に、どんどん遅くなっていくスライムを見て思いついたものであった。これが正しいか、どうか分からない。
だが、試してみる価値は十分にある。彼女も強気な笑顔で理解を示してくれた。
「分かったよ!」
彼女は地面に伏せ、呪文を唱える。すると、地面が吹きあがり、
自分の眼も痛くなるのがデメリットだと思ったが、同時にそれが相手のデメリットであることに気がついた。
今度は体を捻じらせて、体にくっ付くスライムを離そうとした。相変わらず、粘着力は強い。しかし、そこで怖気づく訳にもいかないから、何度か叩いてみる。すると、スライムは不意にポトンと落ちた。
そして、俺の顎へ一直線に飛んできた。体が硬くなっている分、更に痛みも衝撃も強くなっている。
「うわっ!?」
涙目でアリアさんの方に吹き飛ばされていく。アリアさんは俺の肩を支え、立たせてくれるも、相手の追撃が心配だったのか、体が震えていた。
「どうしよ……相手を強くしちゃった……これは一旦……ダメ」
俺達が自分で自分達を追い詰めていたことを知らされる。砂嵐でも起きたかのような風景。辺りが何も見えなくて、どの方向が北でどうやって逃げればいいのかも分からない。
撤退作戦ができなくなってしまったのだ。
迫ってくるのはスライムだけ。
「……あれ? ソージローくん」
突然、アリアさんが俺を呼んだ。彼女は苦い顔をしながら、スライムの方を指差している。
「何で、砂嵐で見えないのに、スライムだけは視覚で確認、ごほっ……」
口に入った砂でむせるアリアさん。彼女の言葉を聞いて、賭けをすることを決心した。というより、もう強制的に決断するしかないのだが。
あの光の元に俺は手を伸ばす。無心で、スライムの元へ飛びつき、その光を探ってみた。てかっていたのは、スライムが綺麗だったからではない。感覚を支配しているだろう核がそこで光っていたからだ。
硬いのも気にせず、俺はスライムの核を掴んでいた。
流石にまずいと感じたのか。ライがまた人間の姿を現した。彼は俺を素早く突き飛ばすと、威勢の良い声を上げながら、俺達に心境を伝えてきた。
「ふっ、世の中にはお前らみたいな愚者には知らなくて良いものもあったのになあ。もう、呆れて口が出ない」
「何だと?」
俺は彼の言葉に反応してみせる。漏れてしまいそうな笑みを
「この弱点を知らなければ、お前達は綺麗に終われたんだぞ? スライムは優しく、相手を包み窒息させたり、綺麗に骨を折ったりするから、素晴らしい
相手の挑発にアリアさんも膨らんできそうな頬を手で押さえている。俺も抓る力を更に強くした。
笑っているこちがバレないよう、小さい声でライに質問をしてみる。
「じゃあ、お前が変身できる最も残虐な魔物って何? まさか、それを出してくることはないよな……?」
「ふふっ」
俺の声の小ささが相手を勘違いさせたのだろう。彼はこくりと頷くと、体を震わせ始める。
「後、ライ、聞いておきたいんだが、今何年異世界生活をしてるんだ?」
「ん? お前達はこの世界に来て、悠久の長さを過ごしてるって言うのか……?」
「いや、俺達、まだ数日しか、ここにいないんだけど」
「ははは、たった数日とは! 俺様の百分の一でしか、ないじゃないか。まあ、いい。このまま、怒りの炎に焼き尽くされて、灰も残らず、消えてしまえ」
つい、彼の口文句に言い返してみたくなった。
「じゃあ、俺の刀の錆びになって消えろ、だな」
彼は体を光らせる前に、ほんの少しだけ歪な顔を俺達に見せてきた。だが、もう止まらない。彼の姿は優に俺の三倍は超える紅い龍になっていた。
アリアさんが眼の上に手を当て、相手を見上げていた。
一睨みで相手を一瞬で石にしてしまいそうな目つき。噛みつくだけで岩さえも砕くであろう牙。
下の方も忘れてはいけない。踏み潰ければ、象だって平たくなるような太い足。
俺達は思わず、息を呑む。だが、ここで怯えてはいけない。臆してはいけない。
「アリアさん! 怖いのは分かりますけど、まずは身を固めて!」
「分かったよ!」
彼女の手から
俺は刀を上に構える。そこにも彼女は赤い光で力を込めた。魔法の力で巧く相手を斬れるようになるってものだ。但し、今の相手の
「この魔法弾を喰らいなさい!」
アリアさんが相手の口元を狙って、何度も熱湯や氷の魔法をぶつけていく。氷や炎を口から出せないようにするためだ。息の攻撃は一回、口に吐く物質を含まなければならない。その時が攻撃のチャンスだ。
水なら凍らせて。炎なら、冷やして。氷なら溶かして。これでほとんどの攻撃を封じることができる。
ただ、魔法系の攻撃をさせないだけでドラゴンの脅威がなくなったと言うことはできない。鋭い爪に大きな体。最も初歩的な攻撃である体当たりだって、高威力を叩き出す。
油断はできない。
俺が走り回り、その龍から逃げるふりをして、刀に思いを託す。自分の常識を魔力にして、そのまま刀を振った。
紅の波動が相手の元に。勿論、その巨体では避けることもできない。波動は学校位の大きさにもなる相手を完全に支配したのが一目で分かった。龍の体が輝いていく。
「アリアさん、ここで一気に叩きこむから、魔法を溜めてください!」
「まっかせなさい! とびきりの電気魔法をお見舞いするわね!」
アリアさんは大きな胸を叩き、自信に満ちた顔をこちらに見せる。思わずうっとりしてしまいそうになったが、そうはしていられない。
俺は刀を強く握る。ここで、俺の常識で必ず相手を倒すのだ。絶対に!
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