VSスライム①~最強の敵こそ、栄光あれ~
勝てる自信がない。この怪物にこの世界で誰も制することはできない。
この荒野を支配する敵。奴は、俺とアリアさんが現れると同時に地面の底から飛び出して来た。
自由自在に形を変える球体。
「うりゃああああああ!」
俺はそのスライムを刀で叩き斬ろうとするも素早い身のこなしで避けられてしまった。そのまま刀を自分の身の前に構え、相手の攻撃を待つ。
スライムの体当たりはこれまた強烈だ。全身を硬くして、自転車以上のスピードで当たってくるのだから。体にヒットした途端、
俺はスライムの攻撃を刀を振り、何度も切り返して防いだ。だが、その代償として手や腕に反動の痛みを覚え始める。刀だけでは相手の力を抑えきれていないという最悪の事態。
俺はスライムの気を引くために、奴の周りを走り、攻撃をアリアさんに任せてみた。彼女の得意な魔法攻撃が効いてくれるという保証がないために途轍もない不安まで迫ってくる。
「アリアさん。
「OK! 分かった」
彼女はスライムから遠く離れた場所で俺の行く末を見守っていた。別に何時でも逃げられるようにしていた訳ではない……はずだ。
彼女と俺が一気に倒されてしまうことがないよう考慮した結果として、こう言う戦い方にしたのだから。
勿論のこと、彼女はこちらに忍び寄り、俺を追っているスライムの方へと狙いを定める。手を突き出し、電気を帯びると同時にスライムへと叩きこんだ。
砂ぼこりが上がり、俺がむせている間に勝敗は決まっていた。
「あ、アリアさん!?」
彼女はスライムに遠慮なく攻撃され、その場に倒れ伏せていた。俺は汗だくの状態でありながらも、キリッとスライムを睨みつけていた。
「あっ、よくも、アリアさんを! アリアさん、すぐさま回復してください……」
「りょ、了解……」
スライムは彼女を倒しただけでは飽き足らず、こちらの方へ突進してくる。それが当たれば、痛手は間違いなし。俺は真正面からぶつかるふりをして、ギリギリのところで避ける。スピードが速いために小回りが利かないところが弱点なのだろう。それを知ったとしても、こちらが不利である状況に変わりはないが。
急いでアリアさんのところへ駆け込み、彼女を守るようにして立った。
「逃げてください。いや、ここは逃亡するに限る。……やっぱり、スライムは危険すぎますから!」
「そ、そうね。だけど、何でこんなに強いの? ってか、何時もの刀の奴でやっつけられないの?」
アリアさんは俺の幻想を斬る技のことを言っているのだろう。
俺は彼女の肩を掴みながら、首を横に振る。
「スライムって触ったことあります? あのぐにゃぐにゃしたのです」
「ああ、まさか……」
「たぶん、俺のあの攻撃をしたら、今のスライム、回避率や防御力が格段に上がると思います。そうなったら、勝ち目はない!」
「ど、どうすんのよ!」
……逃げることを選択するしかない。と言うより、今まさに走っている。
ただ俺達に逃げるが勝ちと言う戦法は残されていないのだ。だが、ほんの少しだけ期待していた。
「アリアさん、もしかして、この敵、この世界に元々いた魔物であって俺達が倒すべき転生者じゃないでしょうか」
「ど、どういうことなの?」
彼女はボロボロになった猫耳をひくひくさせ、
「アイツはこの世界の外からほとんど干渉していない奴だと思う。だって、仲間もいないし……どう考えても、転生者とは思えないんだ。たまたま俺達が魔物の中の強敵に遭遇しただけかもしれない」
「そっか……!」
その言葉にアリアさんは弾んだ声を出す。そこに突如、人間の声で反論が飛んできた。
「ソイツは残念だったな。俺様は正真正銘、お前らに挑戦状を叩きつけられた男だよ? 降参なんて聞きたくねえ。お前らが声も上げられない位になってくれれば、いいだけだ。さあ、こっちへ来い。手を
風が強くなり、辺りの草木が飛んでいく。その激しい風の中から、突如現れた男は俺達に語り掛けてきた。彼は短い髪に赤茶色のマントを羽織り、妙に尖った顎を擦っている。顔立ちは悪くはないのかもしれない。
いや、厳密に言えば彼は現れたのではない。
彼がいたのはスライムが存在していたはずの場所であり、そこから姿を見せたのだ。
つまり、その男=スライムだった。だからこそ、こちらの手を先読みし動くこともできるし、賢く攻撃することも可能だったという訳だ。
悔しい思いが湧き上がってくる。俺は気づくと、彼に建前をぶつけていた、
「おい! お前を倒すことなど、俺が本気を出せば、コンマ一秒で終わるんだ。まさに瞬殺って奴だ。遊んでやってることに気づかれないとは愚かなものよ。我の力はこんなもんではない。この名刀、
彼を挑発した後で思い知る。何故、調子に乗ったのだろうと。
しかも、刀を突き出して言うなんてやりすぎだ、勝算があるのであれば、このやり方は主人公らしくて恰好いいのかもしれない。
だが、今の状態じゃ負け犬になってしまう。
「ソージロー君、発作は治まった? 負け狐の遠吠えみたいになっちゃってるけど大丈夫?」
「言ってる場合ですか……」
彼女の言動に呆れながら、男の方を向く。男はニヤつきながら、アリアさんの方を指差した。
「ふふ……勝ってもこちらが何でもないんじゃあ、あれだな。そうだ、お前達は俺様達の執事にでもなってもらうか。そっちの女は……そうだ、さっき雷の魔法を使ったな……偶然だが、俺様の名を冠するライと同じ。縁だ。お前には恋人にでもなってもらおう! お前のことは永久栄光守ってやろう!」
「え、えええええええええええっ!」
そう叫びながらも、アリアさんは頬を紅く染めていた。まんざらでもなさそうだ。
「アリアさん! 惑わされないでください! ってか、何魅力感じてるんですか?さっきまでボロボロにされてたの忘れたんですか?」
「ああっ、そうよね! そうよね。早く叩き潰しましょう……と言っても、スライムじゃだめだし」
アリアさんとこっそりと耳打ちをする。その話の中でとんでもない作戦が浮かび上がった。それだけはやりたくないのだが……じゃんけんをパーで負けてしまい、潔く男の尊厳を捨てることになった。
「何してる? 早くうんと言わないか」
「いやぁ、おみそれしましたぁ」
ライは俺の言葉に顔をしかめていた。
「何?」
「他にも魔物の姿があろうものでしょう。竜や狼に化けたりと、凄いんでしょうね」
凄まじい。俺に降りかかってくるストレスがおぞましい程で、今すぐにでも彼を殴りたくなってきた。震える腕を左手で押さえつけながら、淡々とお世辞を語る俺。
「くくく……ふはははは! こっちの野生の力に恐れをなしたか! いいぞ、いいぞ!」
「そうです。貴方様方に従うのであれば、貴方が龍である姿を見てから、いや、それにボロボロにされてから、負けたいと存じます」
ライは俺の行動に疑いを持ったのか、舌を打つ。その行動に驚いて、体が固まった。
「ん? 何かあれだな。いいや、二人ならスライムだけでズタボロにできるな」
すでに心はボロボロに。俺は彼がスライムに変化しようとした瞬間、後ろにいたアリアさんに弱音を吐いた。
「こういうの無理です! 勝てる気がしません!」
「えっ?」
「俺、普通にゲームをやったり、いっつもチートばかりやったりしてる人なら、同じルールで戦って圧勝できる自信があります」
「じゃあ?」
彼女は「その反対は?」と聞いてきた。
「縛りプレイをやるような奴には全く勝ったことがないんだ!」
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