VSミステリアスな女神様~女神の禁欲対抗策~

 土臭い空洞が俺と猫耳の女性を拒絶している。暗闇に近いこの場所は危険な雰囲気を嫌と言う程感じさせられた。だが、異世界にいる限りはこの場所に住まなければならない。

 このアリアと名乗る、自称女子大生と共に。


「ははぁ……洞窟って言うのは、辛気臭くて嫌だねえ」

「と言うわりにはアリアさん、意外とワクワクしてませんか?」


 彼女の言葉とは裏腹に目は輝き、視線は何時も動き回っている。どうやら、異世界に連れてこられたことや洞窟に居住することの恐怖があっても、好奇心には逆らえなかったらしい。


「あはは、ワタシは一応、大学のサークルで無人島とか、行くことが多いからかな? こういうサバイバルは慣れちゃってるんだよね」


 慣れとは、何ぞや。彼女の顔を見て疑問を口にしようかと思ったが、止めておく。俺の弱さを簡単に彼女へと見せる訳にはいかないから。

 

「そんな優れた女子大生と一緒に何で、俺まで連れてこられたんだろうか……? やっぱり、あの女神が俺に果てしない魅力を感じてしまったからなのか……? そうなのか?」

「ああ、また出たんだね、発作。ソージロー君、落ち着こっか?」


 僕の発言に彼女は苦笑いで反応しているが、何故だろう。気になるが、それだけを考えている場合ではない。


 俺達がこの異世界で生き延びつつ、元の現実世界へ戻る方法を模索していかなければならないのだ。

 ただ鍵を握っているのは、一人。俺達をこの世界へ導いた女神だ。外見から見える幼さとはかけ離れた行動力と魔力に関しては、流石の俺も驚きを隠せない。


 火事が起きて、その野次馬になろうと夜道を駆けていた俺。そして、大学から帰宅しようとしていたアリアさん。俺達二人が同時に闇へ落とされた。それも言葉通り、壊れるはずがないコンクリートの地面に穴が開き、そこに落ちたのだ。


 そんなことで混乱している俺達の前に現れたのが、女神ラムネ。彼女は神託だ、予言だとか戯言を吐きながら、強制的にこの異世界へ俺達の身を飛ばしたのである。

 彼女の話は半分以上を聞いてない。だが、そんな俺でも覚えていることが三つ。


「貴方、ソージローには現実を武器とできる魔法を授けましょう。そして、アリアには空想を武器とする魔法を授けましょう」

「貴方達には、異世界に住み込み、私の与えた任務を続行し、異世界を転生者がいなかった頃の世界に戻してください」

「任務を続行し、完全に異世界の革命を防ぐことができたのであれば、二人とも元の世界に返します。まあ、選ばれたのが不運だと思って頑張ってください!」


 彼女はその言葉を印象付けたいのか、何度も繰り返された。その話が終わった後は、まだ一度も彼女とは会っていない。女神は忙しいらしい。


 任務と称して彼女が標的に喧嘩を売り、それを俺達が買わされているのである。こんな理不尽に唇を噛みながら、戦っている。

 元の世界に戻るために。


 一応、彼女から異世界生活の援助は受けているも満足と言えたものではない。家は不便な洞窟で、食べ物も生のものだけだ。彼女曰く、「こちらが呼び出した人が家なんか建てたら、任務を終え、二人が帰ったときに悪の温床になる可能性がある」らしい。知ったことか。

 そんなこんなで彼女の言動や目的については疑問だらけだ。

 

「そんなら、何で女神が転生者の処罰をやんないんだ? 女神とあろうものなら、一瞬で片が付こうはずだ」


 以前、その言葉を女神に伝えたのだが、彼女は頬を赤く染めて戯言ざれごとを呟くだけ。


「確かにそうなんだけど、もう、いやーん。思い出させないでよ。宿敵の神様が作った男の子が前、すっごく可愛くて、私まで惚れそうになっちゃったことがあって。けど、そんなんじゃ、転生者を消す私としていけないことだから、石で顔面を殴って、何とかしといたわぁ。つまり、私だと怠慢になる可能性あがるから、貴方達にお願いしたいの!」


 完全に彼女から生えた悪魔の角と尻尾が見えてしまっていた。目の錯覚かもしれないが、自分の心が間違いなく危険だと言っている。


 しかし、その悪魔に従わなければ、俺達は生きてはいけない。こんな簡単な理由で彼女の傀儡くぐつとなったのだ。

 そのためならば、どんな任務も的確に行動しなければならない。この現実を見せる魔法の能力を使って、異世界を夢見る転生者へ罰を下す。その行動が矛盾あることだと痛感している。


「うっ……」

「ソージロー君、いきなりどうしたの? 発狂したの?」

「い、いやな……ちょっと調子がおかしいだけだ」


 あの女神のことを考えていたら、腹が立ったのである。隣で俺の様子を心配してくれているアリアさんには申し訳がないのだが、ほっといてほしかった。もう少しこれからのことを座って考える時間が欲しいのだ。

 数少ないズボンが汚くなること承知で尻を地べたにつける。


「あのふざけた女神様のことなんて、気にしない方がいいんじゃない? もっと、この状況を楽しむことを最優先にしようよ」


 俺はアリアさんの言葉に首を横へと振った。


「飯が不味い。寝る場所がゴツゴツして、寝にくい。勝手に喧嘩を売られ、評判が悪くなってく。眠くても、彼女が闘いだと言ったら出て行かないといけない。それで前向きにいけますか?」

「そうね。あの女神をぶち倒してやりたくなったわ。次、来たらこの手で引き裂こう!」

「ふんっ……あははははは」

「えへへへへ……」


 アリアさんのあまりにも早い心変わりと高い声がおかしくて、つい吹き出してしまった。彼女もつられて笑い出す。その笑顔だけが、異世界で過ごす安らぎとモチベーションになっている。

 そこに気持ちを感じている時、一つの文章が俺の頭を過った。


『南の村に出る魔物の転生者を気絶寸前まで追い詰めてくるように』


 魔物の転生者。俺は同じメッセージが頭に浮き出たであろうアリアさんが深刻そうな顔をしているのを見て、話の確認を取ることにした。


「魔物の転生者、つまり最近のライトノベルとかで言うスライムやドラゴンと言ったところですか」

「やっぱり、そう思うよね。ドラゴンとなると手に負えないじゃない。その刀で太刀打ちできる?」

「……ううん。それよりもアリアさんのスマホとか、幻想を見せる魔法の方が強いんじゃないんですか?」

「ダメダメ! ドラゴンってうろこがあって硬いんでしょ? ほら、トカゲとかだって硬い鱗はあるから敵わないよ……!」

 

 俺は頭を掻きながら、どうしたものかと考える。だが、そう思っているのも束の間。彼女の手を視界に入れたとき、素晴らしきアイデアが脳内に降り立ったのである。

 巧くいけば、必ず勝てるだろう。


「今回はアリアさんにもついていってもらいたいんですけど、大丈夫ですか?」

「その場で頭脳戦かぁ」

「何とかなると思いますよ。俺達二人のコンビの前では、どんな敵も形無しでしょう」


 今までにも異世界転生者とは何度も戦ってきた。ここ数日でスマートフォンを操る奴は勿論、時間を逆行する輩や女性を沢山連れた難聴系主人公もなぎ倒してきた。


 それに対して、魔物に転生した人の話は初めて耳にする。この世界ではの話だが。

 魔物に生まれてきた人はだいたいが凄い能力を持ってきている訳ではない。ほとんどが神の気まぐれで過酷な人生を送ることになる。


 だから俺は今願っている。

 相手が龍であることを。強大な龍ならば、俺の能力で必勝する作戦が頭の中で渦巻いている。だが、アイツだけは来ないでほしい。

 あの魔物だけは太刀打ちできない可能性が高いのだ。


「……スライムだけは闘いたくないからな……スライム、スライム……アイツだけは絶対に出ないでくれ!」

「……ソージロー君、親をスライムにでも殺されたの?」


 俺の言葉に気押しされているアリアの様子をわざとスルーし、南にある村へと足を向けた。

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