第39話 火種が飛び火

春さんが仕事を休んでいる間・・・

バカの1つ覚えと言うか何というか、

結局、私は、仕事しか見えなくなっていくのだ。


水商売のいい所は、結果が目に見えて帰って来ることだ。

人口8千人ほどの小さな村で、争うような店もなく、

東京のような無理な営業はせず、ただ楽しく飲んで

お礼を言って、食事に行って、仕入れを手伝ってもらうだけで

お客様は喜んでくれるのだ。

そして、何度も店に通ってくれるのだ。


そして、お決まりのパターンのように

私は、男に振られる訳である。

嫉妬という重い病を患っているアキラ君を放置しすぎたのだ。

アキラ君の目には、仕入れを手伝ってもらってることも

移動手段の為に呼んでいるお客様も、全てが

『男とばかり遊んで楽しい?』になるのだ。

その当時、店で免許を持ってる女の子は春さんしかおらず、

『では、どうしろと?』と聞いたが

『俺を頼ってくれないの?』と。


・・・・・

イヤイヤ、最初にアナタにお願いしましたよね?

そんなことするのイヤだってアナタ言いましたよね?

・・・・・


で、狭い村なので、

『雨月がアキラと別れたらしい』という噂は

あっという間に広がって、

今まで以上にお客様が来てしまうという

恐ろしいサイクルにハマって行った。

『男がいる』というのを承知で飲みに来ていたお客様は

来店する回数も微妙に増え

『新しい男を紹介するぜ』的な厄介なお客様も増え、

なんだか微妙にやるせない気分になっていた。


その頃、店の売上が良いのを良い事に、

怪我がだいぶ治り、退屈しだした春さんが、

営業時間中に飲み歩きしだして、店の女の子の反感を買いだした。

中間管理職ってこんな感じかしら?と思いながらも

最近の仕入れや裏方の仕事は春さんが全てしてくれている事。

動けるようにはなったが、まだ縫ったり擦ったり痣が酷くて

あまり店には出したくな事を説明した。

それでも女の子は、春さんを非難するのを辞めなかった。

なぜ、そんなにしつこいのか問いただすと

『雨月ちゃんが忙しそうで可哀想』と。

余計なお世話だ!可哀想ってなんだ!と、どっと疲れた。


私は、可哀想ではない事。

春さんは、冬の間、ほとんど休んでいない事。

私がいない間は、ずっと1人で仕入れや店の管理をしていた事。

怪我もそうだが、そういう理由で、少し休ませてあげたい事。

そんな事も説明しないと判らないオマエらの相手の方が疲れる事。

私が可哀想だと思うなら、1人でも多くお客様を呼んでくれ。

と、最後はなんだかお願いのような説明をして、

結局は黙らせた。


水商売のいい所は、結果が目に見えて明らかな事だ。

実際に、私より売上のいい女の子なんていないのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る