第26話 干渉と助言の違いって何?

仕事の事も理解している。

だからこそ、一切の干渉もしない。

と、言われて、転がり込んで来たメンドウな同居人から

お付き合いしている同棲相手に切り替わった高橋君。

私が、高円寺の店を辞めた途端、色々と口を出してきた。


店を辞めた後も、私は数人のお客様とは連絡を取っていた。

『水商売は名刺の数で最低時給が変わる』と言われるほどに

売上が全てだ。

必ず呼べるお客様を何人持ってるかで、入店時の時給が変わる事もある。

名刺=確実なお客様、という意味で実際は名刺の枚数を指す訳ではない。

キャバクラ遊びが好きな人にも色んなタイプのお客様がいて、

土地に着いてる・店に着いてる・女の子に着いてる、

大まかに、この3タイプに分れる。

そんな事もあって、あまり女の子は働く店のある土地を変えない。

新宿の子は新宿、六本木の子は六本木、銀座の子は銀座。

ただ、地価があがれば料金もあがるので、

値段の高い土地から安い土地に替える事は良くある。

土地の雰囲気に合わない時も、早めに土地を動いた方が良かったりもする。

新宿から高円寺に行った私は、安い土地に移ったという事だ。

高円寺でのお客様を新宿に呼ぶのは難しい。

なので、来てくれるであろうお客様だけに絞り込んで連絡をしていた。

『1ヵ月ぐらいは働かず、ノンビリする』とお客様に言っていたし、

その予定であったが、『営業』まで休んでは、次へは繋がらないからだ。


この頃は、携帯へと移行しつつあったが、

まだ家電やポケベルが主流だった。

営業の電話も、ポケベルか、相手の会社に電話する時代だった。

私は、営業手帳をつけていて、お客様の店に来る頻度や連絡した日、

タバコの銘柄、好きな酒、誕生日、電話番号、連絡先などを一纏めにしていた。

もちろん、お客様の方も、私のポケベルや家電の番号は知っていたので

高橋君には家電の使用を禁止していた。


きっかけは、沢田さんだった。

家が近所だったこともあり、

店を辞めても頻繁に食事や飲みに連れて行ってもらっていたのだ。

その日も、沢田さんと食事に行く約束だった。

その事に、突然、高橋君がキレたのだ。

もちろん、元黒服の高橋君は私のお客様をほぼほぼ把握していた。

それがいきなり

『あの沢田って奴、オマエに本気だぞ!』と言い出したのだ。

当たり前すぎて、何を言ってるんだろう?と思った。

惚れられてナンボ、それが『水商売』だ。

そんな事、私よりも理解してるのでは?と思っていたが。

適当に『はいはい、それがなんですか?』と

聞き流して、出掛けた事を帰ってから後悔する事になる。


ほろ酔い気分で家に帰ると、営業手帳がビリビリになって放置されていた。

電話も壊されていて、私は『メシの種』を全て無くした。

これには、さすがに腹が立ち、猛烈に怒った。

仕事に対しての『干渉』であり『越権行為』だと。

が、返り討ちにあった。

殴られ蹴り飛ばされて『助言』だと言い返された。

『ふざけるな、いい加減にしろ』と言ったが

結局、ボコボコに殴られ蹴られ、終わった。


痛くて布団に寝転がっていたら、高橋君は

『ごめんな』と言いながら腫れた所を冷やしてくれた。

謝って貰っても、何かが返って来る訳ではない。

何も言わない私に、高橋君は謝りながら冷やし続けてくれたが

これは、まだ始まりにしかすぎなかった。


そして、私はお客様と同時に

『物知りな年上』な人を失ったのだ。

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