第2話
今は……小学三年生くらいですね。彼の二度目の人生は。
「黙ってろ雑魚が! 俺はクラスで一番成績がいいんだぜ? クソどもは黙ってろよ!」
見事に調子に乗っていますね。
とはいえそれも仕方がないでしょう。さすがにクズでアホでバカな彼とはいえ、小学校三年生くらいの勉強はできますからね。
そして前の世界よりはある程度マシな容姿でしょうか。とはいえ前の世界と比べたらというだけで、そんなにイケメンになっているわけではありません。
もっとも、運動能力は以前よりも改善されたようですね。これもまた「普通」の域は出ていませんが、それでも鍛えればバカにされるほどのことはないでしょう。
まあ……その腐った性格はどうしようもなかったようですが。
「俺は神に選ばれてるんだよっ!」
そんな彼ですが、今は二人の女の子を口説いているようです。とてもかわいらしい子たちですね。優しくてエロいかは分かりませんが。
二周目であることを活かして大人の魅力で迫ろうとしたらしいですが、それも難航しているようです。
「えー……クッちゃんつまらない」
「いこいこ」
「って、ちょっ、おいっ! お前ら、俺と一緒にいたら……クソッ行っちまいやがった」
今度の世界では名前は違いますが、べつにどうでもいいでしょう。今まで通りクズで十分です。
それにしても、幼馴染の定義ってどんなものなんでしょうか。以前彼の持っていた漫画などを読んだ感じでは幼稚園頃からのお付き合いといった感じでしょうかね。
そうなると……今行ってしまった二人はまさに幼稚園からのお付き合いって感じだったんですけどね。見事に嫌われてしまっているようです。
「あいつら……チッ! せっかく俺が付き合ってやるって言ってんのに」
まだ幼い彼女らに付き合うなんてアホなんでしょうかね、このロリコンは。それよりも大人になったら結婚しようと言った方がいい感じのフラグを立てられたと思うんですが……結婚というワードに耐えられなかったんでしょうね、チキンですし。
「あー……もういいや。帰ってゲームでもしてよ。ケッ、神に選ばれてる俺のことをないがしろにしやがって……。俺は優しくて可愛くてエロい幼馴染が欲しかったんであって、あんなあばずれビッチがいいわけじゃねえからな」
ははは、本当に面白いですねあのクズは。もはや人のせいにすることにかけてはまさに芸術的とも言えますね。
あのクズにとって親や友人とは切って捨てることのできるだけのものですし、今の彼は「能力がある」と勘違いしている状態ですしね。そりゃあここまで調子にもノるでしょう。
しかも……今、まったく勉強していないようですね。そりゃまあ、曲りなりとはいえ四大に通っていたわけですから、いくらクズでも小三くらいまでのテストや勉強で苦労することも無いのでしょう。
いつまで続くか見ものですけどね。
さて、彼以外の人間も見てきましょうか。次に見に来るのは……三年後くらいでいいですかね。
小学六年生になったようですが、どんな風になっていることやら。
楽しみにしつつ覗いてみますが……やはりクラスではやや浮いた存在のようです。きっと「こんなはずじゃ」とか思っているんでしょうね。
浮いた存在とはいえ今のところ成績はトップのようですね。とはいえまあ……それもいつまで続くことやら。そろそろ運動なんかは他の運動神経がいい子に負けますし、勉強だって「出来る」子には追い付かれつつあるようです。
努力していればまだまだ負けることは無いんでしょうが……あのクズは努力というものが大嫌いな人ですからね。まあそこにクズがクズたる所以があるわけなんですが。
相変わらず懲りずに女の尻を追いかけていますが、それも二周目の人生且つ神に選ばれている(という妄想)による自信から強気に出られているだけですね。
「おい、野球やろうぜ」
「あ? 俺は選ばれた人間なんだぞ。なんでテメーらと同レベルで遊ばなきゃなんねーんだ」
「おお、怖い怖い。じゃあその選ばれた力を俺たちに貸してくれよ」
「む……仕方ないな」
凄いですね、クズ。小学六年生にうまく操られています。知能レベルは結局小学生以下ということでしょうか。
知識があろうとあの傲慢さをどうにかしないとモテないってなんで気づかないんでしょうね。
それでもいい友達はいるじゃないですか。この様子だったら今世はそんなに悪いモノにはならないのではないでしょうか。
あまりのクズさに面白くなって覗いていましたが、これ以降はそんなに面白いことは起こらなさそうですねえ。
じゃあちょっと、高校生くらいまで飛ばしましょうか。
三年経って、高校生になりました。
もう流石に成績はトップじゃないですね。どうも中二くらいから全く勉強が出来なくなっていったようです。まあ、元々の知能はそんなに高くない上に努力もしないんじゃその程度でしょうか。
それでも未だに自分のことを「選ばれている」と思っている辺り本格的に面白いですね、このクズは。
「なぁ、クー。ちょっと相談、いいか?」
「ああ? どうしたんだよ。珍しいな」
おや、小学生の時にクズを上手く操っていた少年がクズに相談を持ち掛けているようです。他に適任がいそうなものなんですが……。
というかそもそも、同じ高校に進学していたのですね。少年の方は特進クラスでクズは就職クラスですけども。
二人が立っている場所は学校の近くの橋の上です。普段は人通りがかなりある道ですが、今の時間帯――夕方過ぎ――は部活帰りの人も減り、誰もいません。秘密の相談をするにはもってこいでしょう。
「えっと……」
なんんだかもじもじとしている少年にむかってクズは苛立ったように「おい、話があるなら早く言えよ」とせかします。人のクズっていうのは余裕がありませんねぇ。
その後も少し言いよどんでいましたが、少年は恥ずかしそうに「その……さ」と切り出しました。
「いや、実はさ……この前、お前の幼馴染のあの子から告白されて付き合うことになったんだけどよ」
「はぁ!?!?!?!?!?」
ぷっ、あははははははは!!! せっかく出来た幼馴染を友人に奪われてやがりますねこのクズ!
とんでもない形相になっています。呆気にとられるというのはこのことを言うんでしょうね。いやぁ、こんな愉快な表情を見せてくれるとは!
クズの形相には気づかず、少年は爽やかな照れ笑いを見せます。
「それで、その……今度、あいつの誕生日だろ? だから彼女が喜びそうなモノとか知ってたら教えて欲しいんだけどさ……」
なるほど、それならばクズは適任かもしれません。幼稚園の時にフラれたにも関わらず勝手に幼馴染だから大丈夫とか思ってよくくっついていましたからね、クズは。彼女もそこまで憎からず思っていたようですが交際するのは……ねぇ。
そもそも、口先だけで何も出来ないクズと違って少年は特進クラスでも成績はトップクラス、運動神経抜群でさわやかな笑顔と魅力的な人物です。どちらを選ぶかと言ったら百人いたら百二十人が彼を選ぶでしょう。
幼馴染を寝取られた(クズ視点)ことに余程ショックを受けたのか、よろよろとその場に座り込むクズ。なんだか本当に哀れです。最高に楽しいです。
「なんか、好物とかしらないか?」
そんな彼の心情を知ってか知らずか、少年はとても「いい」笑顔で彼に迫ります。
クズは地面に座り込んだままポツリポツリと話し始めました。
「………………………………あいつ、モンブランケーキが好きだぞ」
「お、そうなのか!」
「それと……リラックスパンダが大好きだったな」
「おお! さすが幼馴染。よくわかってる!」
流れるように嘘をつくクズ。彼女は甘いモノは好きですが唯一モンブランケーキだけ嫌いだったはずです。リラックスパンダはそもそも興味が無かったのではないでしょうか。
しかし少年はクズのことを信じ切っています。いやあ、友情というのは美しいですねぇ、あははははははは!
その後もクズは少年に嘘を吹き込み、少年は満足して帰っていきました。そもそも付き合っているならその程度のことは把握していて然るべきな気がする内容でしたが、まだ付き合いたてのようなので仕方ありませんね。
「……やーめた」
座り込んでいたクズがいきなりそんなことを呟きました。
……何を辞めるんでしょうか。
彼はフラフラと立ち上がると橋の欄干に手をかけます。
「俺は……俺は、優しくて可愛くてエロい幼馴染が欲しかったんだよ!」
突然橋の上で叫びだすクズ。完全に事案ですが他に人はいないようなので問題ありません。
「なんでこんな目にあわなくちゃなんねえんだ! 結局能力値もそんなに上がんねえしよ! なんだよ、せっかく二周目の人生なのによ!」
どうも、自分の能力が低いことに気づいてしまったようです。努力もしない人間なんてそんなもんだろうと思いますが。
「あのあばずれが! 俺が小さい頃からどんだけ助けてやったと思ってるんだよ! あのチャラ男だってそうだ、何が付き合うだ高校生が色気づきやがってよぉ!」
むちゃくちゃなことを言っていますが、この自分勝手さはクズの面目躍如です。
その後も散々周囲の人間を罵倒したかと思ったら、クズは橋の欄干に足をかけました。
……え?
「あー……もういいや。リセマラしよ、リセマラ。一回リセマラ出来たんだから……また出来るだろ」
そう呟いて、クズは……あははははははははははははははははは!! 飛び降りた、飛び降りましたよ! なんで!? なんで一回生き返ればもう一度生き返られるって信じ籠めるんでしょう! ここまで愚かだったとは! あはははははははははははは! 本当に最高ですねぇ、あのクズは!
クズが川の中に消えていきます。入水自殺とはまた苦しそうなものを選びましたが……慈悲です。すぐに頭を打って死ねるようにしてあげましょう。
それにしても本当に、本当に……本当にクズってのは面白い! 最高です、最高ですよ本当に!
またしても彼の魂はここにありますが……どうしましょうか。これ。
彼の心が折れるところも……見てみたいですねぇ。そしたらどんな反応をするんでしょうか。
楽しみです、本当に楽しみです。
どこまで堕ちてくれるんでしょうか……。
では、すぐにでも――リセマラ、させてあげましょう。
「ああ……また今世が始まったのか」
――さて、あのクズはいろいろと面白いモノを見せてくれました。とはいえ、もう五回目ともなると飽きてきましたね。
どのルートでも努力することなく、二度目の人生に胡坐をかいてそのままどんどん周囲に置いていかれて最終的に友人や知らない人などにせっかく出来た幼馴染や、可愛い女の子が次々にとられていき、そこで自殺する。
何度も何度も絶望する姿は面白くもありましたが……そろそろ飽きてきました。
そうですね……ああ、そうだ。いいことを思いつきました。
これなら、これなら最高の絶望を見せてくれることでしょう。
ああ、楽しみです。
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