優しくて可愛い幼馴染か、優しくて可愛い義妹が出来るまでリセマラするわw

逢神天景

第1話

「あ、もうダメだわ」


 そんな呟きを発したのは南ヶ丘葛好、20歳。どこにでもいる男子大学生です。

 ……いや、どこにでもいると言うのは少し烏滸がましいかもしれませんね。なんせ彼は学力0、運動音痴、容姿醜悪と三拍子揃ったダメ人間なんですから。

 ちなみに彼は最近「空から金が降ってこねえかな」なんて真剣に考えている紛う方なきクズです。


「……なんか今誰かからディスられた気がする」


 こういうクズに限って自分に対する悪口に関しては耳ざといんですよね。クズなのに。

 まあクズでバカな彼ですが、最近は自分の人生について考えるようになりました。生まれてこの方彼女無し、三流私大に一浪して入り、留年の危機に陥っている自分の人生について。


「……俺ァこれ……詰んでるよなぁ」


 よく分かってるじゃないですか。


「だいたいよぉ……親が俺のことを不細工に産んだのが悪いんだよ、俺に彼女が一人も出来ねえのは」


 無論、そんなことはありません。たしかに彼の容姿は醜いですが、それを補って余りあるほど心の中が醜いから現状があると言っても差し支えないでしょう。


「あーあ、いいよな」


 彼の目線の先にあるのはとあるカップル。どこにでもいそうな実にほほえましいカップルですね。手を繋いで笑いあっています。

 女性の方も、男性の方も恐らく葛好と同い年くらいでしょうね。カップルと言っても無駄にイチャイチャすることも無く、良識を持って歩いている様子から少なくとも付き合ってそれなりの時間が経っていることが伺えます。

 ……まあ、そんなの葛好には関係ないわけで。


「俺があんくらいイケメンだったら彼女だって出来てただろ。っつーか、俺のことをせめてもっと頭よく産んでりゃよかったんだ。いや、それ以前に親父はもっと金を稼ぐべきだろ。親が金持ちならもっといい塾とか行ってよ、そしたらこんな三流大学に一浪もして入ることは無かったんだ。俺は地頭はいいからな」


 言っておきますが、彼の地頭はよくないですね。努力してもせいぜい凡人レベルでしょうか。具体的に言うなら全てを投げうって勉学のみに熱中したとしてもせいぜい三流私大が二流私大になるくらい。まあ浪人はしなかったでしょうけどね。


「ケッ、いいよなぁ、生まれながらにして恵まれてる奴はよぉ」


 そりゃ、生まれながらに才能がある人もいますが……葛好は特別不遇ってわけでもないと思うんですけどね。普通の中流家庭に生まれて大学にまで行かせてくれているんですから。

 むしろ、葛好のようなごくつぶしを大学に行かせてくれるだけ最高の親だったと思いますが。


「あー……ホント、人生ってクズだろ、クソだろ。なんなんだよマジで」


 石ころを蹴って川に落とす葛好。そして再び橋の欄干に腰掛けて空を見上げて呆けています。

 真っ青な空には鳥が――おそらくトンビ――クルリと輪を書いて気持ちよさそうに飛んでいます。


「……鳥はいいよなぁ。なんの悩みもねぇんだろ。クソッ、死ねよ」


 とうとう鳥にまで呪詛を吐き出しましたよこのクズ。

 ここまでくるとさすがに笑えてきますが、このクズは人を呪うくらいしかできないチキンでもあるので害はありません。

 様々な人間を観察するのが私の役目のような気もしますが――彼ほどのクズもなかなかいないでしょう。見ていて飽きません。

 葛好は欄干から降りると、手ごろな石を手に取りました。そして川にむかって投げ込みます。彼のストレス解消でしょうか。


「あーああああ!!! 本当に、本当にこの世界ってのはクズだよ!」


 クズ代表が何かを叫んでいます。


「俺に彼女が出来ねえのはそもそも優しくて可愛くてエロい幼馴染がいねぇからだ! それさえいりゃあ俺だって努力したさ!」


 このクズは妄言を騒いでいますが、彼に優しくて可愛くてエロい幼馴染がいたところで変わりはしないと思うんですよね。

 葛好はそう叫ぶと……え、なんか橋の欄干に足をかけました。


「あーーーー!!!!!! もう! 俺はリセマラするわ! 優しくて可愛くてエロい幼馴染か、優しくて可愛くてエロい義妹が出来るまでリセマラする!」


 いや、貴方には無理でしょう。

 しかし、このチキンはどうにも腹に据えかねていたようで、なんとあろうことかそのまま川にむかって飛び込みました。

 ……って、ちょ、えっ!?


「あーはははははははっはあはははははっははっはあはは! クソがくそがくそが! リセマラだリセマラァッ! 死ね死ね死ね死ね死ねッ! くくは、あははははははははははははあはあはあはははあははははははは!!!!!!!」


 そしてそのまま川の中に消えていきます。

 ……そんなに堪えたんでしょうか、彼の人生は。

 何がつらかったんでしょうか。

 中学生の時、人生で初めて出来たと思っていた彼女が……実は罰ゲームの告白でしかなく、罵詈雑言とともにフラれたことでしょうか。

 それとも高校生の時に、葛好が秘かに想いを寄せていた女の子が……彼のバイト先に彼氏とデートに来たからでしょうか。

 もしくはさっき、好きな女の子から呼び出されたと思ったらその子の彼氏に金をかつあげされたからでしょうか。

 それとも……今後一生童貞で終わる、という事実をどこかで知ってしまったんでしょうか。

 どれでしょうねぇ。














 さて、とはいえ人生をリセマラするとかほざいてマジで飛び降り自殺をした人は初めて見ましたね。衝動的とはいえなかなかのものです。

 自殺する勇気も無いチキンかとも思っていましたが……はてさて、人間とは分からないものですね。

 とはいえどうしましょうか。一応彼の魂はここにあるんですが……。

 本来ならば、ちゃんと記憶を消して輪廻転生してもらうんですけどね。なんだか彼の人生に興味が湧いてきました。

 このまま記憶を保持したまま――何度も、何度も人生を送らせてみたら。

 果たしてどおんな人生を送るんでしょうねぇ。





 少し……楽しみです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る