それは聖杯だった 7

「ではこれからのことを」きりりと面持ちを改めエマさんは言った。「今、あなたたちに残された道は、『聖杯』を『聖地』に運ぶことだけです」


 僕は「その聖杯というのがよくわからないんですけど。それと聖地って?」と聞いた。


「聖杯とは、強力な力をこの世界において具現化したものよ。すなわち、あなたたちの指輪ね。あまりに強力でシステムに検出されやすいため、分割され、単体では行使できないようになっているわ」


 僕たちは各自の薬指を見た。「これ、たまたま夜店で買ったものですよ?」僕は困惑した。


「聖杯は、適切な人物の手に、自然な形で渡るように仕組まれている。手に入れると他者は強奪できない。肌身離さないものとして指輪という形がとられたようね」


 今一度、しげしげと指のリングを眺めた。子供のこづかいで買える安物にそんな力が宿ってたなんて。にわかには信じられなかった。


 残り少ないのか大きくカップを傾けて紅茶を飲み干すエマさんに、僕は「ウラヌスにとって都合の悪いものなら、どうしておおぜいで襲ってこないんでしょうか。さっき話したフリングスとプライだけが指輪を渡すよう要求しました」と問うた。


「ウラヌスは原則的には、乗員の安全で快適な生活を保障するよう設計されているわ。常になんでもかんでも実行可能な仕様で構築すると、意図しない加害行動をとる可能性が生じるの。そのため、最後のときまでは危害を加えられない仕組みになっている」ゆるくエマさんは首を振る。「一方で、ウラヌスの制御を逸脱可能な、特殊なオブジェクトが存在する。ウラヌスの対処しきれない事態に際して、自律的に判断、行動する者が何人かいるわ」


 それがあのふたりだったというのか。

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