動物園の死闘 11
僕は、十五年来の親友の顔を、まるで宇宙船の窓に見たエイリアンのように、まじろぐのも忘れて見やった。
ある意思。選別。死ぬ――いったい、なんの話だ?
フリングスがそう語ったって?
コクーンの夢の人間が、現実の世界を認識するだなんて聞いたことがない。
指輪。
僕は自分と彼女の指にはまっているものをそれぞれ見た。
そういえばプライもこれを要求した。マリーの様子がおかしいのはこれのせいだとも言っていた。
僕は左手を見せて、これはいったいなんなんだ、と彼女に尋ねた。
「わからない」彼女は首を振った。「ただ、フリングスは異常に指輪に執着してた。自分のが嫌ならクコのを持って来るようにとも言った。問い詰めたとき一度だけ、ふたつの指輪は世界を変える鍵だ、って言ったことがある。口を滑らせたふうで、そのあとは何度聞いてもそのことに触れようとしなかった」
世界を変える鍵。
あまりに突飛で話が飲み込めない。これは祭で偶然買った安価なものだぞ。
彼女は扇形の石畳を足先でなぞって続けた。
「指輪がそろったときになにかとんでもないことが起きるんじゃないかと想像した。実際、フリングスはいなくなった」
改めての言及に、僕の頬は心もちこわばる。
あの奇怪な現象を本当に彼女が? にわかには信じがたかった。
理性は否定するが、目のあたりにしたできごとは、僕の脳内に常識と概念の塗り替えを迫る。彼女と薬指の小さな指輪が不穏当なものに思えてきた。
いくらコクーンの夢とはいえ人格を持ったひとりの人間だぞ。それを消滅させてしまうなんて。
僕の思いを察したかのように彼女は言った。
「ああしてなければクコが殺されてた。それに――」少し言いよどむ。「それに彼は、この世界の異質な存在だった」
確かにさっきの一幕は常識では説明がつかない。
「壁」が彼の仕業だとしたらとてもまともな人間じゃない。殺されかけもした。しかたのないことだった――僕には到底、割りきれる気がしなかった。
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