動物園の死闘 12

 バスが到着した。雨やんでよかったな、などと話しながら十人ほどの乗客が降りていく。後部ドアから乗り込み、僕たちは後ろの座席に着いた。

 ゆっくりとバスが走りだす。動物園のたたずまいが遠ざかっていく。日を浴びるその姿を見てると、なぜかプライのことが思い浮かんだ。

 今まで僕に気のある素振りをしていたのは、指輪を奪うための下準備だったのか。なんだかがっかりだ。

 ……って、僕はなにを考えてるんだ。まるっきり懲りていないのか。


 プライといえば――

 両脇を濃い緑色に囲まれて坂道をくだりながら、僕はふと気づいた。

 いつか父さんが彼女について気にかけたことがある。父さんと母さんが、ほかの生徒と男女交際がなかったとの話、あれとリンクする。

 ウラヌスは、乗員同士の交際の障害となる行動を、ほかの生徒にとらせないんだ。それを知っていた父さんは、プライの言動をいぶかしんだ。

 フリングスといい、あのふたりはいったい何者なんだ。


 濡れた体に車内の冷房は肌寒かった。僕は鳥肌をたてて、マリーに「寒くない?」と聞いた。

 彼女は直接答える代わりに、僕を困らせる質問を返した。「くっついてもいい?」


 僕が窮していると、返答も聞かずに彼女は肩を寄せた。どきり、と心臓が躍る。

 最初は冷ややかだった腕へ、じきに彼女のぬくもりが伝わってきた。

 湿った袖越しの柔らかな感触。

 濡れた体同士だとことさらに、なにかいけないことをしている心境になる。人目につかない座席で助かった。


 彼女は、お祭の日以来だね、こうするの、ともの静かに言った。ここ最近のぼやっとした声ではなく、妙につやっぽい響きだった。

 こういう彼女はちょっぴり苦手だ。だって、どきどきするから。


 話題を変えようと、フリングスの件を父さんたちに相談しよう、と言った。


「だめっ」と彼女は目の色を変えた。「こんなこと話したらまたコクーンを禁止される。あんな生活はもう絶対嫌。だからクコにも話せなかった」


 お願い、みんなには秘密にしてて、と彼女は懇願する。


 僕は弱った。今度のことはコクーンの夢の異常のみならず、現実の船や僕たちに危害がおよぶ事態のようだ。とても僕と彼女だけで抱えきれる問題じゃない。

 マリー、とさとすように彼女の名を呼ぶ。彼女は、お願い、と同じ言葉を繰り返した。寄り添う肩は、寒さのせいだけではなく小刻みに震えていた。


 市街地に差しかかった景色を、見るともなしに眺めながら考えをめぐらせた。

 いくつか交差点を通り過ぎて僕は彼女に提案した。


「行きたいところがあるんだけど、一緒に来てくれる?」

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