動物園の死闘 7

 そんな馬鹿な。インとアウトは基礎中の基礎操作じゃないか。万にひとつもないが、仮にコクーンの夢に異常が発生しようとも、ログアウトだけは常に保障されている。


 疑念を払うように仮想世界からの退出意思を示そうとしたとき、後ろから首をつかまれた。くっ、フリングスがまた。


 同じ中学生とは思えない怪力に、たまらず現実世界へ逃げようとしてぎょっとする。――できなかった。


 頭のなかで念じれば視界はブラックアウトし、意識は覚醒状態に復帰するはずが、いくら意思決定を試みてもなにも起こらない。フリングスの大きな手が変わらず絞めつけてくる。両手であらがいながら混乱する。今まであたりまえのようにできていたことが、こんなときにかぎってなぜ。


「周りに助けを呼ぶんだっ」


 身を起こした彼女へ指示するも「それもできないっ」とかぶりを振った。

 フリングスの手をはがそうともがく僕は、彼女がなにを言っているのか理解に苦しんだ。


 クレープ屋の向こうから、ポンチョをかぶったカップルらしきふたりが出てくるのが見えた。助けを求めようとしたが、恐ろしい力で首を圧迫されてかすれ声しかでない。

 彼らは辺りを見まわし楽しそうにしゃべり、なにごともないかのように通り過ぎる。

 ――彼女の言葉の意味がわかった気がした。


 いくら雨で人が少ないとはいえ、この騒ぎに誰も駆けつけないはずがない。大声であの人たちに呼びかけることができたとしても、おそらく声は届かない。

 このままでは

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る