マリーの異変 2

 しばらくの間、会話が途切れた。缶同士がぶつかる音、セミの暑苦しい鳴き声、校舎向こうで野球部のボールを打つ音だけが聞こえた。

 プライの手つきは変わらず漫然としていて、やる気なさげにも見える。


「学校休んでるとき、マリー先輩となにしてたんですか」つまむ空き缶に目を落として彼女が尋ねた。「噂どおり新婚旅行に行ってたとか」


 僕は、みんなに何度も繰り返した言いわけを並べた。

 家庭の事情で休んでいた、マリーは関係ない、新婚旅行なんて根も葉もないでたらめだ――

 彼女は全然信じてなさそうにビニール袋にアルミ缶を放り込み、次の缶をつまみ上げた。


「クコ先輩とマリー先輩ってー、もうしちゃってます? ――エッチ」

「なっ……!」僕は一瞬青くなり、次に顔が熱を帯びるのがわかった。「そ、そんなことあるわけないだろっ。失礼だ」


 目をそむける僕と入れ替わるように彼女が顔を上げた。


「だったらあたしとエッチしませんか」

「はあ!?」僕は声がひっくり返った。


「経験があったほうが、マリー先輩と初めてするときあわてないじゃないですか」

「き、君……君はなにを言っているんだっ。あ、あれかっ、いわゆるビッチというやつかっ」


 泡を食った僕は、言うにこと欠いて侮蔑語を口走った。

 真っ赤になる僕へ、彼女はこともなげに「あ、あたし処女ですから」と言ってのけた。

 もう彼女がなにを考えているのかさっぱりわからない。話の飛躍は女子の専売特許なのか。なにか侮辱を受けた気分だった。


 僕は乱雑なあつかいで残りの空き缶を一気に袋へ投じると、口を縛りごみ置き場へ投げるように置く。がしゃんという耳障りな音が鳴った。

 先輩、待ってくださいよー、と追いすがるプライを半ば無視して、逃げるように生徒会室に向かった。

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