暴かれた秘密
22 マリーの異変
マリーの異変 1
週明けの月曜日。
休み時間の教室は、めいめいの生徒同士が固まって話をしていた。
婚約指輪のことは、一週間もたつとクラスの話題にあまりのぼらなくなった。動物園の珍獣のように取り囲まれたのも二、三日だけ。人の順応は意外と早い。僕自身も、最初は嫌でしかたなかった指輪にある程度慣れてしまっていた。もう隠してもいない。隣のマリーの笑顔を見ていると、なんだか彼女の思惑にまんまとはめられた気がしてちょっと面白くない。
僕が口をすぼめていると、彼女は、どうしたの、と首をかしげた。べつに、と僕は窓に顔を向ける。
入道雲が夏の空へ奔放に広がっていた。
こちらの夢にいると、昨晩の悪夢も、実際には僕たちふたりはコクーンのなかで眠っていることも、宇宙を飛び続けている現実も、すべて忘れられる。
コクーンさまさまだよ、といくらかの含みを込めて肩をすくめてみせた。彼女はまた首をひねった。
うだるような暑さを、セミが増幅器と化して無駄に高めてくれる放課後。今日は生徒会活動のある日だった。
僕は校舎裏で空き缶の分別をしていた。先週、ボランティア活動で拾ったり、生徒の家から持ち寄られたりしたものだ。
日陰にいるだけまだましだけど、額には汗が浮いた。
「やっとふたりきりになれましたね、先輩」
一緒にしゃがみ分別作業をしている女子がほほえむ。他人の詮索大好き娘、プライだ。
この前のような彼女の出まかせではなく、本当に先生からの指示があってふたりでおこなっている。
意味深なことを言うんじゃない、と僕はアルミ缶とスチール缶を別々のビニール袋に分けながらたしなめた。
「そのままの意味ですよ。あたし、先輩のことあきらめてませんから」彼女は、少しでも長く僕といようという腹なのか、手の動きが緩慢だった。「ほんとにしてるんですね、婚約指輪」
びくっとし、体の陰に左手を退避させる。
「先輩のキャラじゃありませんよ。先輩だって嫌なんでしょ? 外したらどうですか」
「君にとやかく言われるすじあいはない。口より手を動かせ」
「マリー先輩に頭があがらないんですね。そんなだと結婚後は尻に敷かれますよ。嫌なものは嫌だと今のうちから意思表示しないと」
マリーの手のひらで操られているイメージがまた湧く。指輪が首輪のように思えてくる。
「これは僕の意思でつけているんだ。彼女の指図は関係ない」
「でも今、後ろに隠しましたよね?」プライはすぐに突っ込んだ。「抵抗あるなら取ればいいんですよ。なんならあたしがもらいましょうか?」
「はあっ?」
手を差し出す彼女に頓狂な声が出た。
「マリー先輩にはなくしたことにすればつけなくて済みますよ」
「そこまで嫌なわけじゃないし、そんなの不誠実だ。だいたい、なんで君がもらうんだ」
突っぱねるとプライはえへへと舌を出す。まったく。この子は突拍子もないことをずけずけと。
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