宇宙生活の終焉 3

 ……冗談だろう?


 母さんの答えに僕は背筋が凍った。

 カプセルを見つめて唾を喉に落とす。手のひらの小さな粒がにわかに禍々しい色に見えてきた。


「あなたから飲みなさい」母さんは次男の肩に手を置いた。「怖い思いをさせたくないの」


 グミは「これ飲むの?」と不思議そうに自身と母さんの間にカプセルを掲げた。

 あいつだってもう十一歳だ。今の話でこれがどういうものかわかるはずだ。にも関わらずグミはためらうことなく口を開いた。


「飲んじゃだめだ!」


 僕は叫んだ。構わずグミはカプセルを口に放り込んだ。

 それが効果を現すまで長くはかからなかった。

 間もなくグミは眠るように母さんのほうへ、くずおれた。母親に受け止められたその体は腕がだらんと垂れ下がっていた。

 ――弟は、死んだ。


 グミの頭を抱いて母さんが、次はあなたよ、と僕に言った。真剣なまなざしに僕は戦慄した。


「な……なんでこんなひどいことを……」

「苦しませたくないの」

「これから船内温度と酸素濃度が大きく低下する。相当の苦痛を味わうことになる」父さんがカプセルをつまんで示した。「これなら眠るように逝ける」


 僕は母さんの胸のなかのグミを見た。

 次は僕の番だって? グミにならって死ねと?


「嫌だっ。僕はこんなもの飲みたくないっ」

「わがままを言うんじゃない」

「母さんたちもあとからすぐに逝くから」


 僕は震える足で後じさった。

 ふたりの顔つきも口調も正気の沙汰とは思えなかった。父さんたちをこれほど怖いと感じたのは初めてだ。


 船が機能を失う。両親に死を迫られる。弟の死。

 なんだよこれ。現実に起きていることなのか? なにかの間違いじゃないのか?

 なにもかも信じられなかった。オレンジ色の灯火のもとで、僕の頭は起こっていることのすべてを拒絶した。


 突然、船内からいっさいの光が失われた。

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