第十二話 天才

「おいセシル‼ これは一体どういうことだ‼ ことと次第によっては……」

「お、 落ち着け達也……ぐ、 ぐるじい……」

「いいから早く吐け‼ さもないともっと締め上げるぞ‼」

「わ、 わかったがら……は、 はなじで……」

セシルのその言葉をきき、 達也はそっと彼女から手を離した。

「ごほっ……ごほっ……全く……思いっきりしめやがって……私が死んだらモードレットのメンテは、 一体どうするつもりなんだ……?」

「そんなことは今はどうでもいい。 それよりも何故椿がここに写っているんだ? これはお前が作ったのか? もしそうだったら俺はお前を……殺す」

達也のその気持ちに嘘偽りはなく、 声音も真剣そのものであった。

セシルもそんな真面目な様子の達也を見てふざけた態度で接するのは失礼かと思ったのか彼女らしからぬ様子で事の真実を語り始めた。

「まず初めに言えることはその子をのは私じゃない」

「作った?」

「そうだ。 その子は超高性能なAIなんだよ」

「AIだと?」

「そうだ。 そしてお前の妹はモードレットのパイロットのサポートするための専属AIとして設定されていた」

「待て。 それはおかしい。 だって俺がモードレットを初めて起動したときは、 コイツが出てくることなど一度も……」

「それは、 そうですよ。 だって兄さんがモードレットを初めて起動していた時は私は、 やることがありましたから。 それと私の事はコイツではなく、 前みたいに椿と呼んでください。 じゃないと私泣いちゃいますよ?」

そう言って達也の携帯上で泣く演技をしてみせる椿。

彼女が泣いているのは演技だということは彼にとっては演技だとわかっていても彼女の姿は、 彼のと瓜二つだ。

そんな彼女の泣き顔は、達也にとってまさに致命的なダメージに他ならなかった。

「達也? 大丈夫か?」

「……大丈夫だ。 それよりもコイツを……」

「うわ~ん。 兄さんが私の事名前で呼んでくれな~い。 椿悲しくて、 悲しくて、 涙がでちゃうよ~」

「グハッ……」

「た、 達也‼ おい椿お前いい加減に……」

「ふふふふ……兄さんの困った顔は相川らず堪らないですねぇ……私のあそこが濡れてきちゃいます……」

「コ、 コイツ……」

-変態だ。 しかも極度の……

この時セシルの脳内で、 椿の警戒レベルが一気に跳ね上がる。

そして彼女を達也から引き離すために即座に彼女を消滅させるプログラムを達也の携帯に送り付けるが、 そんな事読めていたと言わんばかりに椿の手によって一瞬のうちに無効かされてしまう。

「な!? バカな‼ あのプログラムを一瞬で……」

「ふふふ、 無駄ですよセシルさん? なんたって私は、 なんですから。 貴方程度のがどうにかできるレベルであるわけがないじゃないですか」

「わ、 私が三流だと……」

「ええ、 三流です。 ああ、 でも落ち込まないでくださいね? 私に勝てる人間なんてこの世でいるわけないんですから」

先程自分と圧倒的な実力差を見せられたセシルからすればその言葉に反論する余地はなく、 項垂れるほかなかった。

「その言い方……お前は……本当に椿なのか?」

達也の記憶の中で彼女の今の発言が、 椿と結びつく。

そう椿という女性は昔から極度の自信家だったのだ。

そして口癖のように自分の事を天才といつも言っていたのだ。

「だからそう言っているじゃないですか。 相変わらず兄さんは、 ですねぇ。 まあそんなところが可愛いんですけどね‼」

「はははは……全く……お前は相変わらず兄ちゃんを馬鹿にしてくれるなぁ……」

「だって事実じゃないですか。 それとも兄さんは、 この私にかなうと思っているのですか?」

「いいや。 全くそんなことは思っていないよ。 確かに俺は椿がいない間に死に物狂いで努力してきたがそれでも多分お前には

この言葉の通り達也は、 今まで死に物狂いで努力してきた。

 それでも尚彼女に勝てないというのは、 達也にはわかっていた。

それ即ち彼女がそれだけ突出した頭脳をしていることに他ならなかった。

「はい。 兄さんは素直でいい子ですね。 本当ならここで兄さんの頭を撫でてあげたいところなのですがあいにく今の私はこんな状態ですらね」

「そうだ椿。 お前は何故今そんな体に……」

「ああ、 それはまあ色々ありましてね」

「色々って……」

「色々は色々なんです」

「まあ椿が言いたくないのならいいが……それよりもお前の本体は一体どこにあるんだ?」

これは達也にとって最重要案件であった。

何せ彼女の意識と呼べる部分は今目の前にいるのである。

だが今の彼女に肉体はない。

達也としては、 なんとしてでも彼女の肉体を取り戻し、 昔の様に一緒に過ごしたいと思っているのだ。

「ああ、 その事なのですが……」

「ん? どうかしたのか?」

「あいにく私も全然記憶にないんですよね」

「な!?」

それは達也にとって非常に驚くべきことであった。

何せ椿は今まで物忘れをしたことがなく、 一度見た物は確実に記憶ができると言った凄まじい記憶力をもっているのだ。

にも関わらずそんな彼女が覚えていないというのは、 達也にとって地球が壊れるくらいありえない事であったのだ。

「どうもこの体になった際にいくつかの記憶が抜け落ちてしまったようでして……」

「それで自分の体がどうなったかわからないと?」

「はい……ごめんなさい兄さん」

その事については本当に悪く思っているのか素直に謝罪の言葉を口にする椿。

椿が謝る姿は非常に稀であり、 彼女が今まで謝ってきた回数は数回程度であり、 その謝る相手は全て達也であった。

「いや、 お前は悪くない。 悪いのは全部お前を連れ去ったあいつらだ」

「ははは……そう言ってくれるとこちらとしても助かります」

椿の笑顔は明らかに無理をしていた。

達也は、 そんな彼女の笑顔を見て今すぐにでも彼女に駆けよって慰めてやりたかったが、 彼女の体は電子で構成されており、 そのようなことできるあろうはずもなかった。

そしてこの時達也の中で世界に対しての憎悪の感情が増していた。

「兄さん?」

「……何でもない。 それよりもお前は一体何故モードレットの専属AIなんかに設定されていたんだ?」

「ああ、 それは私がモードレットの設計をした張本人だからですよ」

「な!? それは本当なのか‼」

「ええ。 それとついでに言うならば他の機体にも私以外の存在がAIとして設定されているはずですよ」

その言葉を聞いた瞬間再起不能状態に陥っていたセシルが急速に息を吹き返した。

「その言葉は本当なのか‼」

「うわ‼ もう‼ ビックリさせないでくださいよセシルさん」

「す、 すまない……だがそれよりもさっきお前がいった言葉は本当なのか?」

「むぅ……私よりバカの癖にお前呼ばわりとは中々いい度胸していますね」

「椿。 それぐらいの事で怒るな。 それに家族と無理やり引き離される辛さはお前もわかっているだろう?」

「う……兄さん……それを引き合いに出すとは少しは成長したようですね……」

「まあな。 これでも幻影学園では学年一位だからな」

「へぇ……兄さんが一位なんですか。 となると周りには鹿しかいないんですね」

「ははは、 お前からすればそうかもな」

「おい。 それよりも……」

「ああ、 はいはい。 私の話は紛れもなく真実ですよ。 ただしあなたの身内がどの設計に携わっていたかまでは私も知りませんけどね」

「そ、 そうか。 それでも弟が……アルが……未だ生きているということがわかってよかった……本当によかった……」

セシルは、 余程緊張していたのかその言葉を聞いて地面に崩れ落ちてしまった。

「な、 なぁ……達也」

「分かっている。 お前の弟も俺が助ける。 だからお前は今まで通り仕事をしてくれ」

「うう……ありがとう……本当に……ありがとう……」

達也は泣きじゃくるセシルを無言で抱きしめてやり、 セシルは達也の胸で今まで押さえつけてきた感情を全て吐露した。

ただ達也とは違いを椿だけは、 人前でみっともなく泣きじゃくるセシルの事を酷く冷めたい目で見ていた。

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