2話 幻影学園


国立“幻影学園”。

世界に七校しかないファントム士官育成学校の内の一つである。

その学校の入学試験は独特であり、 学力試験だけでなく、 体力試験もある為ただ頭がいいだけでは入れないのである。

その為偏差値はすさまじい数値をだしており、 学校に入学できた者の将来は約束されていると言っても過言ではない為、 年々学園への入学を希望する者が後を絶たなかった。

「二人ともクラスどうだった?」

「A」

「私も」

「相変わらず二人とも凄いなぁ……Aクラスって言ったらトップ中のトップじゃねぇか。 てか二人の出席番号1番と2番じゃないか……」

幻影学園のクラス分けや出席番号は、 試験の成績により割り振りされる。

クラスはAからEまであり、 出席番号はそのクラス内での順位を表している。

達也と雪乃出席番号は1番と2番。

これは、 一年生の中での主席と次席を表していた。

「そういうお前もギリギリAじゃないか」

「……まぁ本当にギリギリだけどな」

翔の出席番号は40番。

一クラス四十人で構成される。

その為翔の成績は、 Aクラスの中では最も悪い。

「まぁ達也と同じクラスになれただけでラッキーか」

「俺は最悪な気分だ。 またお前みたいな奴と一緒なんてな」

「酷い‼」

「……もう。 達也は相変わらず素直じゃないのね」

「……どう意味だ?」

「別に何でもないわよ」

達也は恨めしい目で雪乃のことを見るが、 当の雪乃はというとそんな達也の視線をうまいこと躱していた。

「あ、 そう言えば達也。 お前学年の首席ということは、 新入生の代表挨拶お前がするのか?」

新入生の代表挨拶は基本学年の首席が行う。

幻影学園は世間的にも注目度が高い。

その為入学式には、 毎年多くのメディアが集まるのだ。

新入生代表は、 その多くのメディアのせいで顔があっという間に世間に広がる。

その為各国のファントム部隊はそんな優秀な生徒を我先に手に入れようと毎年勧誘するのだ。

「いや。 俺はしない」

「え? なんで勿体ない……」

「俺は、 そんな動物園のサルみたいな見世物みたいに扱われるのは嫌いなんだ」

ーそれに俺はこんな国に仕えるなど死んでも御免だしな

達也の腹積もりを知っている雪乃も達也の言い方が面白かったのか自然と笑みを零していた。

翔はというと達也のその言い分に呆れかえっていた。

「……お前は本当に大物だよ」

「それはどういう意味だ?」

「別に。ということは早乙女さんがやるのか?」

学年の首席が辞退したとなると当然次席にその役割が回ってくる。

その為この場合は、 雪乃が挨拶するはずのだが雪乃は翔に対して首を横に振っていた。

「私もしないわ。 だって達也のお零れを貰うみたいでなんか嫌じゃない?」

もちろんこれは建前であり、 本音は達也のの為にも素性がバレる事を嫌がっただけに過ぎない。

けれどそのような考えがあるとは全くも思いもしない翔は、 その言葉を鵜呑みにするしかなかった。

「……俺二人の将来が今から色々楽しみだよ」

「ん? なんだって?」

「……なんでもない。 そうなると今年の挨拶は学年の学年3位の人になるのか?」

「そうだな。 ええと名前は……」

よ。 達也は相変わらず人の名前を覚えるのが苦手なのね」

「仕方ないだろう興味ないんだから」

「あら? 学年3位なのだから油断したら達也もあっという間に成績ぬかされてしまうわよ?」

「……微塵もそう思ってないくせに」

達也はジトっとした目で雪乃を見るが雪乃はそんな目を向けられているにもか関わらずただ楽しそうに笑う。

雪乃はただでさえ美人だ。

そんな人間が特定のしかも男子とイチャついている様を見せられている光景を男子が見ると彼らは、 必然的に達也の事を嫉妬の籠った目で見つめていた。

翔はというと中学から二人のそんな光景を見慣れていたため、 ただため息しか出てこなかった。

「……なぁ二人とも。 少しは人の目気にしようぜ」

「俺は人間に興味ない」

「そういう問題じゃなくて……なぁ早乙女さんからも何とか言ってくれよ……」

「あら? 別にいいじゃない。 私と達也とのだから」

周りの達也を見る視線の圧力が増す。

中には物騒なことを口に出すものもいるが達也はその視線を歯牙にもかけない。

「そう言えば雪乃。 ええと……なんだっけ?カナ……何とかのデータってあるか?」

「俺の話少しは聞けよ‼」

「翔。 少し黙ってろ」

達也が翔の名前を呼ぶときは、 真面目な話をしたいときだけである。

それを翔自身も知っているからこそ翔はここは達也の意見を尊重することを選んだ。

「持っているわよ。 でも達也が人に興味持つなんて珍しいわね。 あ、 もしかしてさっき私の言ったこと実は結構気にしてた?」

「違う。 ちょっとな」

達也は、 先程名前を聞いた際胸の中で少し引っかかるものを感じたのだ。

達也の経験上こういう時は、 後々厄介になことになると知っていたのでそれならばあらかじめ相手の情報を知っておこうと思ったのである。

「そう。 まあいいわ。 ちょっと待ってね」

雪乃はカバンの中から一つの手帳を取り出した。

その手帳の中には雪乃自身が調べた様々な情報が書き込まれており、 その中には当然に在籍する生徒の全ての情報が書き込まれていた。

「カナリア・ローズブランド。 年齢は私達と同じ十五。 父と母共にイギリス人であり、 金色の髪に碧の瞳が特徴的で容姿もかなり整っているみたいよ」

「奴がどのような容姿をしているかなどどうでもいい。 それよりも奴の成績はどんなものなんだ?」

「そう焦らないで。 せっかちな男は嫌われるわよ?」

「雪乃」

「もう。 それぐらいで怒らないでよ。 ええと……どうやら学力試験、 体力試験共に二位みたいね」

因みに達也の試験結果は、 体力試験が一位、 学術試験が三位である。

雪乃はそんな達也とは反対で学術試験が一位であり、 体力試験は三位である。

「に、 二位って。 それってあれか。 達也より頭が良くて運動は早乙女さん以上にできるってことか!?」

「そうなるわね。 これはうかうかしてるとあっさりぬかされてしまいそうね達也?」

雪乃は達也に呼びかけるが達也から反応が返ってくることはなかった。

達也は彼女の成績を聞いて別段驚いてはいなかった。

自分より優れた人間などこの世にごまんといる事を達也とて理解しているからである。

達也が反応しなかった理由は、 昔一人だけ自分とほぼ同等の能力を持った少女を知っていたからである。

達也とその少女は小学生の頃とても仲がよく、 達也のとも仲が非常に良かった。

ただそんな彼女との付き合いはとても短いものであり、 今の今まで達也自身もそんなことがあったことすら忘れていたのだ。

「ちょっと達也‼」

「……ん? すまん」

「人が呼び掛けているのだから返事くらいしてくれないかしら?」

雪乃の様子はどこか怒っており、 その様子に達也は素直に謝罪の言葉を口にした。

雪乃はまだ納得いかないといった表情をしていたが達也が謝罪の言葉を口にしたことによりこれ以上何か言うのは器が小さいかと思い渋々達也の事を許した。

「達也が呆けているなんて珍しいな。 何かあったのか?」

「……いや。 なんでもない」

「そうか。 にしてもなんでカナリアさんは、 わざわざ日本に来たんだろうな。 イギリスにもファントム士官養成学校ってあるんだろう? しかもイギリスと言えばファントムの生産が最も盛んな国なんだし、 学校のレベルも向こうの方が高いはずなのに……」

ファントムの開発においてイギリスはアメリカを抜いて一位である。

イギリスがここまで急成長を遂げられたのは、 ファントムの装甲であるメダリウム鉱石が一番最初に発掘された場所であったからに他ならない。

「その点については彼女周りに公言してるみたいよ。 なんでも昔あった一人のに会いにきたって」

「へぇ……それはなんとまぁロマンチックなことで。 その男の子がここにいるとは限らないのにさ」

「斎藤君って意外にリアリストなのね。 その見た目からは全く想像できないわ」

「早乙女さん中々酷いこと言うね……俺ちょっぴり傷ついた……」

「ええと……傷つけるつもりで言ったわけじゃないのよ? 本当よ?」

「……うう。 その言葉が余計辛い……てか‼ 達也。 さっきから黙ってるがどうかしたのか?」

「……何でもない。 それよりも早く行こう」

先程の会話の中で達也は、 確信していた。

カナリアが自分と昔仲の良かった少女であることを。

それを二人に悟らせまいと達也の顔は自然仏頂面になる。

そんな達也の事を気になりはするが、 時計の針は8時25分を指しており、 入学式の開始までにはあと5分しかなかった為、 二人は達也の言葉に従う他なかった。

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