幼稚園児の意地悪
富田 うさぎ
幼稚園児の意地悪自我
幼稚園の年長の頃、
家の近くにあった小学校の運動場が
私の遊び場だった。
一時期毎日のように母に
連れていってもらったからか、
そこだけが一人で行くことの
許されていた唯一の場所だった。
周りはそんな事はもちろん知らない。
“私は一人だけで運動場に来てるんや!”
運動場で母親を連れて遊ぶ
年の近い子ども達を見回して、
山の頂点に立ったような気分だった。
あの頃はおませな子だと
よく言われていたし、
幼稚園では足も速く少し図に乗っていた。
ある日見たことのない男の子が
砂場にいた。
「妹と同じ年くらいかな?」
そう思って、
自称運動場のボスだった私は彼に声をかけた。
「仲間にいーれーて」
「いいよ」
砂で作った山を固めるのに
必死になっていた男の子は、
チラッと私を見てそう言ってくれた。
男の子が作った山に
幼稚園で友達と毎日練習して培った
“山にトンネルを掘る”
という技を自慢して見せた。
頭を傾げてトンネルを覗き込み、
「おー!繋がってる!向こう見えるよ!」
とても嬉しそうで無邪気に
男の子は笑った。
私はすごく嬉しかった。
一仕事を終えた私たちはもう友達だった。
私は男の子に
どこに住んでるか
兄弟はいるか
そんな単純な質問をした。
「最近引っ越してきた。」
男の子はそう言った。
少し話をしていると私は気づいた。
“そう言えばこの子一人で来てる…”
私は気になって聞いてみた。
聞いてもいいのか、いけないのか
頭がぐるぐるしながら結局は聞いてしまった。
「お母さんは家にいるよ。一緒に来たけど
1人で遊んでおいでって先に帰った。
暗くなる前に帰っておいでって言ってた。」
それを聞いて私は
幼稚園児ながら劣等感に苛まれた。
ボスとしての自意識が小さいながら崩れ落ちた。
妹くらいの年の子が1人で来てる…
最近近くに引っ越してきたばっかりやのに…
言葉には表せない複雑な気持ちが湧き、
“もう帰りたい”
ただそう思った。
「もう帰るね」
汚れた手を払いながら私は立ち上がって
スタスタと門の方へ歩き出した。
「え、待ってよー」
男の子が追いかけて来たが
ものすごく邪魔になった。
小学校からすぐの家に着いた時、
私の跡を追って来た彼も一緒だった。
“懐かれてしまった”
そう思った。
ちょうどその頃、
友達と遊びに出かけても、
何をしても妹が付いて来る時期で
懐かれる・付いて来られる
ことに物凄く嫌悪感を感じていた時期だった。
“優しくし過ぎた…”
私はため息が出そうになるのを堪え、
どうすればこの子が帰ってくれるのか
それを考え始めてすぐに
口が動き出した。
「うちのお父さん、
めっちゃ怖い人と知り合いやねんで。
何かあったらしらんで。」
びっくりするくらい口から出まかせだ。
言い放った後に自分でも
この後どうしようかと悩みながら
男の子を見ると、
少し不安そうな顔をしていた。
“この調子やな”
そう思い、そのままデマカセを続けた。
男の子は黙りこくって肩をすくめている。
そんな時だった。
「あんた。いい加減なこと言ってないで
早よ帰って来なさい。嘘ついたらあかんやろ!」
頭の上でお母さんの声がした。
私の会話は母が洗い物をしている台所の窓から
丸聞こえだった。
男の子はキョトンとした表情で
黙って背中が小さくなった私と
母の声がする窓を交互に見ながら
しばらく状況を飲み込みていない様子だった。
幼稚園児の意地悪 富田 うさぎ @tomochansan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
七生が出会したいくつかの最新/七生 雨巳
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 66話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます