61『一人で初詣』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・61   


 




『一人で初詣』



 深く考えこむのはヤバイ気がしてきて、年賀状の返事を書くことにした。


 半分以上は、あらかじめ出した人なんで、十人程への後出し年賀。後出しの分だけ、心をこめて書かなきゃ。

 はんぱなデジタル人間のわたしは、アナログな返事を書くのに昼前までかかってしまった。


 お昼は、はるかちゃんのマネをして関西風のお雑煮をこさえた……と言っても、お歳暮にもらった高級インスタントみそ汁の中に、チンしたお餅を入れただけ。

「なに食ってるんだ。まるで昔の犬のえさみてえだな」

「なに、それ?」

「昔の犬は、残り物にみそ汁のブッカケって決まったもんだ」

「ちがうよ、これは関西風のお雑煮。おいしいよ。おじいちゃんもこさえたげようか」

「よせやい。いくら戌年の生まれだからって、犬マンマは願い下げだぜ」

「おいしいのになあ……」

 わたしの強がりを屁とも思わずに、おじいちゃんは行ってしまった。



 昼から、年賀状を出すついでに初詣に行った。

 忠クンも誘おうかとも思って、携帯を手にしたんだけど……やっぱ止めた。


――厚かましいのにもほどがあるぞ!


 と、神さまに叱られそうなくらいのお願いをした。

 でも、お賽銭はピカピカの百円玉。使うのが惜しくて、ずっとひっそりと机の中にしまっておいたのよね。

 この百円玉は、去年の五月ごろ、気がついたらお財布の中に入っていた。

 なんだか不思議だった。前の日に食堂でおソバを食べようとして、お財布の中に一枚だけあった百円玉を券売機の中に入れた。確かに最後の百円玉だった。

 で、明くる日、コンビニで雑誌を買おうとしてお財布を開けたら、この百円玉が入っていた。

 造幣局でできたばかりみたいにピカピカの百円玉。でも、なんだか、とても懐かしい気持ちにさせてくれる百円玉だ。

 それを使ったんだから、わたし的にはとても大事な願い事。

 どんな願い事だって?……それは、この物語を最初から読んでいるあなたなら分かるわよね。

 おみくじを引いてみた。

 大吉だった。


 ――新しきことに挑みて吉。目上からの引き立てあり。波乱多きも末広。意外のことあるも臆する無かれ。努力と忍耐が肝要なり。で、恋愛運は……気は未だ熟せずも、末吉。人の成長を気長に待たねば破綻の気配。と、あった。


 正月のおみくじってたいがい大吉なんだけど、良く読むと、良いことは多いけど、なんだか半分脅かしみたい。波乱多きもとか、臆する事なかれとか、破綻の気配とか。

 要するに、努力し忍耐しなきゃ保証無しってことで、不幸になれば、おまえの努力と忍耐が足りないからだってこと。

 幸せになれなければ自己責任。なれたら、神さまのお陰ってこと。いい加減っちゃ、いい加減なんだけど、これも神さまのご託宣。ありがたく持ち帰ります。

 よく、境内の木の枝に結んで帰る人がいるけど、あれは悪いくじを引いたときにやるもんで、神さまのご託宣であるので、ありがたく持ち帰るのがセオリーだとおじいちゃんに教えてもらった。


 ありがたくお財布の中に収めると、ポンと肩を叩かれた。

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