60『元日の朝』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・60
『元日の朝』
「ねえ、テレビに出たって、なんで言ってくれなかったのよ!?」
そこから話しは再開され、互いの近況やら、小規模演劇部の稽古の仕方などについてハッピートーキングは爆発した!
兄貴は、その後タキさんのアドバイスを元に、香里さんに連絡をとりイソイソと出かけていった。
新宿にある名画座(料金が安いが選りすぐりの名作が観られる)で『結婚適齢期』を観たあと、同区内のあまり肩の凝らないフランス料理屋へ。コースも三種類ほど書かれている。あとは……十八禁の内容なので省略させていただきます。
なんでこんなに詳しく分かっちゃったか言うと、兄貴は筆圧が高い(この時は、さらに気合いが入ってた)ので、メモ帳の下の紙にクッキリ残っちゃってんのよ。
ジュディーガーランドが気になったので調べてみた。
ライザミネリと親子だってことが分かった。『オズの魔法使い』の彼女、カワユイんだけど、一つ気になる……このツンとした鼻は、わたしの(数少ない)コンプレックスのひとつなのだ。
……で、思い出しちゃった。中学に入ったころ、髪をお下げにしてたら、はるかちゃんのお父さんが、こう言ったのよね。
「まどかちゃんて、ジュディー……いや、なんでもない」
あれって、わたしのコンプレックスと知って、言い淀んだ……まあ、あまり深く考えないことにいたします。
そして、はるかちゃんに最後にお願いした。
「女子三人、照明、道具に凝らないお芝居ないかしら?」
『すみれの花さくころ』を紹介してくれたけど、このお芝居は歌芝居なので歌がね……上手じゃないと。
里沙も、夏鈴もね……だれよ、おまえも人のこと言えないって!
大晦日は、シキタリ通りの年越し蕎麦をみんなで頂きました。香里さんもいっしょだったの、タキさんのアドバイスはすごい!
元日は大晦日ほどにはシキタリにはうるさくない。
昔は、家族そろって、荒川区で一番の神社に初詣に行ったものだけど、兄貴やわたしが年寄りの時間に合わせられなくなってから(つまり朝寝坊)は、各自の時間に合わせて初詣。
だれが一番早いと思う?
おじいちゃん……いいえ兄貴なのよね。紅白歌合戦の最終組のころに出かけちゃった。むろん香里さんといっしょ。朝は、この兄貴の大鼾で目が覚めた。
茶の間に降りて、兄貴を除く家族でアケオメ。
ガキンチョのころは、振り袖なんか着たこともあったけど、今はジーパンにセーター。お雑煮をおかわりして二階の自分の部屋へ、
パソコンを開くと、すでにはるかちゃんが待機してくれていた。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、わたしも今落ち着いたとこ」
元日のはるかちゃんはリビングに居た。
ここから、お雑煮の実況中継。はるかちゃんちはタキさんに習ったレシピで関西風にチャレンジ。
「へえ、白みそに丸餅なんだ……お餅焼いてないんだね」
「へへ、では、はるかの関西風お雑煮の初体験……」
実においしそうに食べる……こっちも負けずにおいしそうにいただく。
……視線を感じる。
「何やってんだ、おまえら」
兄貴がパジャマの寝癖頭のまま覗き込んでいる。
「これが元日の現実の(韻を踏んでます)兄ちゃんで~す!」
「や、やめろって!」
カメラで追いかけ回すと居なくなっちゃった。
中継のあと、はるかちゃんは嬉しい約束をしてくれた。
何かって? それは、まだナイショ。
「年賀状が来てるわよ!」
お母さんの声で茶の間に降りた。
わたしたちって、たいがいメールでアケオメしちゃうんだけど、二十通ほどはやってくる。
アナログだけど、手書きの年賀状っていいものね。メールのアケオメで一見して一斉送信だったりすると、ダイレクトメールよりガックリくる。
年賀状はたとえ、パソコンでプリントしたのでも――今年もよろしく!――なんて手書きで書いてあったりっしてね、
「これは、この人が、わたしのためだけに書いてくれたんだ」
と思えて、ホンワカしちゃう。
何通かは、演劇部を辞めてった人たちのがあった。ほら、テニス部に行ったA子からも来てた。覚えてる? 倉庫跡の更地で発声練習してたら、テニス部のボ-ルが飛んできて、投げ返したら、ムスっとして、態度わる~って感じの子。
――クラブ逃げ出したみたいで、ごめんなさい。マリ先生のいないクラブが不安で……まどか達に押しつけたみたいだけど、陰ながら応援してます――という内容。
少し救われた気持ちになった。
潤香先輩のお姉さんからも来ていた。先輩は相変わらずの様子……新学期が始まったら、またお見舞いに行こう。
マリ先生は、あいかわらず正体不明。
――クラブがんばってる? わたしは、わたしの道でがんばってます。乃木坂ダッシュの新記録はまだ?――
忠クンからも来ていた。最初から気づいていたんだけど、一番最後にまわした。
――謹賀新年。まどかに負けないよう頑張ります。大久保忠友。
と、カナクギ流で書いてあった……よく見ると、下の方に虫が並んだように追伸。
――薮先生のところで感銘を受けて出しました。元日に間に合わなかったらごめん。
トキメキとガックリがいっぺんに来た……そして、しばらく眺めていたら、心配になってきた。去年の忠クンは、あの火事の中からわたしを助けてくれたことも含めてなんだか突飛すぎるような気がする。なんだかアンバランス……気のせいだろうか?
――まどかも人のこと言える?
そんな声が、自分の中から聞こえてきて、うろたえた元日の朝。
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