48『大雪のクリスマス』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・48   




『第十章 再開……それは大雪のクリスマスだった・3』



 松竹の富士山が、ド-ンと出て映画が始まった。やっぱ五十二型は迫力が違う。


 網走刑務所の朝から幕が開く。

 健さん演じる島勇作。彼の葛藤の旅路がここから始まるのだ。

 網走駅前で、ナンパし、されている欣也と朱美に出会い、旅は三人連れになる。

 互いに、助け、助けられ。あきれ、あきれられ。泣いて、笑って。そうしているうちに三人の距離は縮まっていく。

 そして、勇作を待っている……待っているはずの(いつか、欣也と朱美という二人の若者の、観客の願望になる)妻との距離が……。

 そして、見えてきた……夕張の炭住にはためく何十枚もの黄色いハンカチが!

 それは約束のしるし、あなたを待ち続けているという妻の心にいっぱいの愛情のしるし!

 エンドロールは、涙でにじんでよく見えない……。

 バスタオルがあってよかった、ティッシュだったら何箱あっても足りないもん。



 そのあと、二階のわたしの部屋でクリスマスパーティーを開いた。

 むろん、はるかちゃんも一緒。

 六畳の部屋に四人は窮屈なんだけど、その窮屈さがいいのだ。

 あらためて、はるかちゃんに二人を、二人にはるかちゃんを紹介した。もう互いに初対面という感じはしないようだ。同じ映画を観て感動したってこともあるけど、わたし自身が双方のことを話したり、メールに書いていたりしていた……。

 クラブのことはあまり話さなかった。いま観たばかりの映画の話や大阪の話に花が咲いた。

 同じ日本なのに、文化がまるで違う。例えば、日本橋という字にしたら同じ地名になる所があるんだけど、東京じゃニホンバシと読み、大阪ではニッポンバシ。むろんアクセントも違う。

 タコ焼きの食べ方の違いも愉快だった。東京の人間は、フーフー吹いて冷ましながら端っこの方からかじっていくように食べる。大阪の人間は熱いまま口に放り込み、器用に口の中でホロホロさせながら食べるらしい。それでさっき、はるかちゃん食べるの早かったんだ。はるかちゃんは、すっかり大阪の文化が身に付いたようだ。

 それから、例の『スカートひらり』の話になった。このへんから里沙と夏鈴は聞き役、わたしと、はるかちゃんは懐かしい共通の思い出話になった。


「あ、寝ちゃった……」



 小学校のシマッタンこと島田先生の話で盛り上がっている最中に、里沙と夏鈴が眠っていることに気がついた……。



 二人にそっと毛布を掛けて、わたし達は下に降りた。

 茶の間では、さっきの宴会の跡はすっかり片づけられ、おばあちゃんとお母さんがお正月の話の真っ最中。お父さんは、その横で鼾をかいていた。おじいちゃんは早々に寝てしまったようだ。

「遅くまですみません」

「ううん、まだ宵の口だわよ。あんたたちもこっちいらっしゃいよ」

 お母さんが、炬燵に変わった座卓の半分を開けてくれた。

「あの、よかったら工場で話してもいいですか?」

「構わないけど、冷えるわよ」

「わたし、工場の匂いが好きなんです。わたしんち、工場やめて事務所になっちゃったでしょ。まどかちゃんいい?」

「うん、じゃ工場のストーブつけるね」

 わたしは工場の奥から、石油ストーブを持ってきて火をつけた。

「あいよ……」

 おばあちゃんが、ミカンと膝掛けを持ってきて、そっとガラス戸を閉めてくれた。


「懐かしいね……この機械と油の匂い」

「……はるかちゃん、ほんとに懐かしいのね?」

「そうだよ。なんで?」

「なんか、内緒話があるのかと思っちゃった」

「……それもあるんだけどね」

 はるかちゃんは、両手でミカンを慈しむように揉んだ。これもはるかちゃんの懐かしいクセの一つ。このおまじないをやるとミカンが甘くなるそうだ。

「……う、酸っぱい」

 おまじないは効かなかったようだ。

「フフ……」

「その、笑うと鼻がひくひくするとこ、ガキンチョのときのまんまだね」


 半年のおわかれが淡雪のように溶けていった。溶けすぎてガキンチョの頃に戻りそう……。

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