46『雪の三丁目』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・46
『雪の三丁目』
家についたらまた雪だるま。
駅でビニール傘を買おうかと思ったんだけど、里沙も夏鈴も両手に荷物。女の子のお泊まりって大変なんだ。
で、わたし一人傘ってのも気が引けるので、三人そろって「エイヤ!」ってノリで駅から駆け出した。
大ざっぱに言って、駅から四つ角を曲がると我が家。再開発の進んだ南千住の中でこの一角だけが、昭和の下町の匂いを残している。
キャーキャー言いながら四つ目の角を曲がった。すぐそこが家なんだけど、立ち止まっちゃった。
「わあ、三丁目の夕日だ!」
里沙と夏鈴が感動して立ち止まる。
で、わたしも二人の感動がむず痒くって立ち止まる。
ちなみに、ここも三丁目なんだ。フンイキ~!
「何やってんだ、そこの雪だるま。さっさと入れよ」
兄貴が顔を出した。
「はーい!」
小学生みたく返事して、三人揃って工場の入り口兼玄関前の庇の下に。
「あれ、兄ちゃんお出かけ……あ、クリスマスイブだもんね。香里さんとデート!」
「わあ、クリスマスデート!?」
夏鈴が正直に驚く。
「雪はらってから入ってね。うち工場だから湿気嫌うの。機械多いから」
「そっちは年に一度の機会だから。がんばれ、兄ちゃん!」
「ばか」
と、一言残し、ダッフルコートの肩を揺すっていく兄貴。
ドサドサっと、玄関前で雪を落として家の中に入った。
「ただいま~」
「おじゃましま~す」
トリオで挨拶すると――ハハハハと、みんなに笑われた。
カシャッ……とデジカメの音。あとでその写真を五十二型のテレビで映してみた。
ホッペと鼻の頭を赤くして、体中から湯気をたてているタヨリナ三人組が真抜けた顔で突っ立ている。
「そのまんまじゃ風邪ひいちゃうぞ、早く風呂入っちまいな」
お父さんがデジカメを構えながら言った。
「もうー」
と、わたしは牛のような返事をした。
「フー、ゴクラク、ゴクラク……」
夏鈴が幸せそうに、お湯につかっている。
「こんな~に、キミを好きでいるのに……♪」
その横で、里沙が、やっと覚えた曲を口ずさんでいる。
里沙は、たいていのことは一度で覚えてしまうのに、こと音楽に関しては例外。
そんな二人がおかしくて、つい含み笑いしながら、わたしは体を洗っている。
「なにがおかしいのよ?」
里沙が、あやしくなった歌詞の途中で言った。
「ううん、なんでも……」
シャワーでボディーソープを流してごまかす。
「でも、まどかんちのお風呂すごいね……」
「うん。昔は従業員の人とか多かったからね」
「それに……この湯船、ヒノキじゃないの……いい香り」
「うん、家ボロだけど、お風呂だけはね。おじいちゃんのこだわり……ごめん、詰めて」
タオルを絞って、湯船に漬かろうとした……視線を感じる。
「やっぱ……」
「寄せて、上げたのかなあ……」
「こらあ、どこ見てんのよ!」
楽しく、賑やかで、少し……ハラダタシイ三人のお風呂でした。
脱衣所で服を着ていると、いい匂いがしてきた。
「すき焼き……だね」
「ん……なんだか、もう一つ別の匂いが……」
「これは……?」
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