45『四本のミサンガ』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・45   


『四本のミサンガ』




「あの、これ持ってきたんです!」


 わたしは、やっと紙袋を差し出した。

「これは?」

「潤夏先輩が、コンクールで着るはずだった衣装です」

「ああ、これ!? まどかちゃんが火事の中、命がけで取りに行ってくれたの!」

「エヘヘ、まあ。本番じゃわたしが着たんで、丈を少し詰めてありますけど」

「丈だけ?」

 夏鈴が、また混ぜっ返す。

「丈だけよ!」

「ああ、寄せて上げたんだ。イトちゃんがそんなこと言ってた」

 里沙までも……。

「あんた達ね……!」

「アハハハ……」

 お姉さんは楽しそうに笑った。それはそれでいいんだけどね……。

「こんなのも持ってきました……」

 里沙が写真を出した。



「……まあ、これって『幸せの黄色いハンカチ』ね」



 勘のいいお姉さんは、一発で分かってくれた。部室にぶら下がった三枚の黄色いハンカチ。その下にタヨリナ三人娘。それが往年の名作映画『幸せの黄色いハンカチ』のオマージュだってことを。

 わたしは理事長先生の言葉に閃くものがあったけど、ネットで調べるまで分からなかった。

 伍代のおじさんが、大の映画ファンだと知っていたので、当たりを付けて聞いてみた。大当たり。おじさんは、そのDVDを持っていた。はるかちゃんもお気に入りだったそうだ。

 深夜、自分の部屋で一人で観た……使いかけだけど、ティッシュの箱が一つ空になっちゃった。

 それを、お姉さんは一発で理解。さすがだ。

「ティッシュ一箱使いました?」

 と聞きたい衝動はおさえました。

「これ、ちゃんと写真が入るように、写真立てです」

 里沙が写真立てを出した。あいかわらずダンドリのいい子だ。

 写真は、すぐにお姉さんが写真立てに入れ、部員一同の集合写真と並べられた。


「あ、雪……」



 写真立てを置いたお姉さんがつぶやくように言った。

 窓から見える景色は一変していた。スカイツリーはおろか、向かいのビルも見えないくらいの大雪になっていた。

「これ、交通機関にも影響でるかもしれないよ……」

 里沙が気象予報士のように言った。

「いけない。じゃ、これで失礼します」

「そうね、この雪じゃね」

「また、年が明けたら、お伺いします」

「ありがとう、潤香も喜ぶわ」

「では、良いお年を……」

 ドアまで行きかけると……。

「あ、忘れるとこだった!」

 夏鈴、声が大きいってば……カバンから、何かごそごそ取り出した。

「ミサンガ作り直したんです」

 夏鈴の手には四本のミサンガが乗っていた。

「先輩のにはゴールドを混ぜときました。演劇部の最上級生ですから」

「……ありがとう、ありがとう!」

 お姉さんが、初めて涙声で言った。

「わたしたちこそ……ありがとうございました」

「あなたたちも良いお年を……そして、メリークリスマス」

 ナースステーションの角をまがるまで、お姉さんは見送ってくださった。


 結局トンチンカンの夏鈴が一番いいとこを持ってちゃった。ま、心温まるトンチンカン。芝居なら、ちょっとした中盤のヤマ。

 こういうのをお芝居ではチョイサラっていうんだ。ちょこっと出て、いいとこさらっていくって意味。


 わたし達は地下鉄の駅に向かった。そのわずか二三百メートルを歩いただけで、雪だるまになりかけた。駅の階段のところでキャーキャー言いながら雪の落としっこ。

 こんなことでじゃれ合えるのは、女子高生の特権なんだろうな。と思いつつ楽しかった!


 里沙と夏鈴は、駅のコインロッカーから、お荷物を出した。

 今夜は、わたしんちで、クリスマスパーティーを兼ねて、あるタクラミがある。

 それは、合宿みたいなものなんだけど、タヨリナ三人組の……潤香先輩も入れて四人の演劇部のささやかな第二歩目。

 第一歩は部室の片づけをやって、黄色いハンカチ三枚の下で写真を撮ったこと。


 心温まる第二歩は、次の章でホカホカと湯気をたてて待っております……。

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