44『第九章 お見舞い本番』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・44   


『第九章 お見舞い本番』




「まあ、まどかちゃん! 里沙ちゃん! 夏鈴ちゃん!」


 予想に反して、お姉さんはモグラ叩きのテンションでわたし達を迎えて下さった。

 ちょっぴりカックン。

「オジャマします」

 三人の声がそろった。礼儀作法のレベルが同程度の証拠。

「アポ無しの、いきなりですみません」

 と、わたし。頭一つの差でおとなの感覚。

「クリスマスに相応しいお花ってことで見たててもらいました」

「わたしたち、お花のことなんて分からないもんで、お気にいっていただけるといいんですけど……」

「わたし達の気持ちばかりのお見舞いのしるしです」

 三人で、やっとイッチョマエのご挨拶。だれが、どの言葉を言ったか当たったら出版社から特別賞……なんてありません。

「まあ嬉しい、クリスマスロ-ズじゃない!」

「わあ、そういう名前だったんですか!?」

 ……この正直な反応は夏鈴です、はい。

「嬉しいわ。この花はね、キリストが生まれた時に立ち会った羊飼いの少女が、お祝いにキリストにあげるものが何も無くて困っていたの。そうしたら、天使が現れてね。馬小屋いっぱいに咲かせたのが、この花」

「わあ、すてき!」

 ……この声の大きいのも夏鈴です(汗)

「で、花言葉は……いたわり」

「ぴったしですね……」

 と、感動してメモってるのは里沙です(汗)

「お花に詳しいんですね」

 わたしは、ひたすら感心。

「フフフ。付いてるカードにそう書いてあるもの」

「え……」

 三人は、そろって声を上げた。だってお姉さんは、ずっと花束を観ていて、カードなんかどこにも見えない。

「ここよ」

 お姉さんは、クルリと花束を百八十度回した。花束に隠れていたカードが現れた。なるほど、これなら花を愛(め)でるふりして、カードが読める。しかし、いつのまにカードをそんなとこに回したんだろう?

「わたし、大学でマジックのサークルに入ってんの。これくらいのものは朝飯前……というか、もらったときには、カードこっち向いてたから……ね、潤香」


 お姉さんの視線に誘われて、わたしたちは自然に潤香先輩の顔を見た。


「あ、マスク取れたんですね」

「ええ、自発呼吸。これで意識さえ戻れば、点滴だって外せるんだけどね。あ、どうぞ椅子に掛けて」

「ありがとうございます……潤香先輩、色白になりましたね」

「もともと色白なの、この子。休みの日には、外出歩いたり、ジョギングしたりして焼けてたけどね。新陳代謝が早いのね、メラニン色素が抜けるのも早いみたい。この春に入院してた時にもね……」

「え、春にも入院されてたんですか?」

 夏鈴は、一学期の中間テスト開けに入部したから知らないってか、わたしも、あんまし記憶には無かったんだけど、潤香先輩は、春スキーに行って右脚を骨折した。連休前までは休んでいたんだけど、お医者さんのいうことも聞かずに登校し始め。当然部活にも精を出していた。ハルサイが近いんで、居ても立ってもいられなかったんだ。その無理がたたって、五月の終わり頃までは、午前中病院でリハビリのやり直し、午後からクラブだけやりに登校してた時期もあったみたい。だから色白に戻るヒマも無かったってわけ。そういや、コンクール前に階段から落ちて、救急で行った病院でも、お母さんとマリ先生が、そんな話をしていたっけ。

「小さい頃は、色の白いの気にして、パンツ一丁でベランダで日に焼いて、そのまんま居眠っちゃって、体半分の生焼けになったり。ほんと、せっかちで間が抜けてんのよね」

「いいえ、先輩って美白ですよ。羨ましいくらいの美肌美人……」

 里沙がため息ついた。

「見て、髪ももう二センチくらい伸びちゃった」

 お姉さんは、先輩の頭のネットを少しずらして見せてくれた。

「ネット全部とったら、腕白ボーズみたいなのよ。今、意識がもどったらショックでしょうね。せめて、里沙ちゃんぐらいのショートヘアーぐらいならって思うんだけど。それだと春までかかっちゃう」

「どっちがいいんでしょうね?」

 単細胞の夏鈴が、バカな質問をする。

「……そりゃ、意識が戻る方よ」

 お姉さんが、抑制した答えをした。

 とっさにフォローしようとしたけど、気の利いた台詞なんてアドリブじゃ、なかなか言えない。

「だって、『やーい、クソボーズ!』とか言って、からかう楽しみが無いじゃない」

 お姉さんが、話を上手くつくろった。妹が意識不明のままで平気なわけないよね……。

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