22『大阪に転校したはるかちゃん』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・22   

『大阪に転校したはるかちゃん』



 まあ、帰ってから聞いてみよう……ぐらいの気持ちで家を出た。


 で、あとは、みなさんご存じのような波瀾万丈な一日。

 帰ったら、お風呂だけ入って、バタンキュー。

 で、今日は朝からスカートひらり、ひらめかせっぱなし。


 お父さんの「も」にかすかなインスピレーション感じながら、中味はタイトルに『大阪に転校したはるかちゃん』と、あるだけで、あとははるかちゃんとの思い出ばっかし。

 提出すると、プッと吹きだして、先生はわたしの目を見た。

「あ……いけませんでした?」

「いいわよ、文章が生きてる。仲さん、あなた、はるかちゃんて子とスカートめくって遊んでたの?」

 先生はは地声が大きい。クラス中に笑い声が満ちた。

「違います!」

「だって」

「次の行を読んでください!」

「アハハ……」

 声大きいって! クラスのみんなの手が止まってしまった。

「な~る……みんな、続きがあるからね。そうやって、いかにスカートをカッコヨクひらめかせるか研究してたんだって。はい、名誉回復」

 ……してないって。席にもどるわたしを、みんなは珍獣を見るような目で見てるよ。


 そうやって、恥かきの一時間目が終わって、わたしは携帯のメールをチェックした。昨日からのドタバタで、丸一日携帯を見ていなっかたのよね。

「あ!」

 思わず声が出て、わたしは自分の口を押さえた。運良く、教室の喧噪にかき消されて、だれも気づかなかった。


 アイツからメールがきていた。


 一年ぶりに……。


 そこには、二つのメッセージがあった。

――ありがとう、勇気と元気。潤香さんお大事に。

 二十字きっかりの短いメッセの中に、わたしへの思いやりと、潤香先輩への気遣いがあった。

 万感の思いがこみ上げてきた……そうだ、潤香先輩。


 そこに、里沙と夏鈴が割り込んできて、わたしは慌てて携帯をオフにした。

「今日、三四時間目も自習だよ!」

 夏鈴が嬉しそうに言った。

「音楽の先生、インフルエンザだって」

 里沙が続けた。

「で、わたし考えたの……!」

 夏鈴が隣の席を引き寄せて腰を下ろした。

「な、なによ?」

 思わず、のけぞった。

「音楽の自習って、ミュージカルのDVD観るだけらしいからさ」

 そりゃ、急場のことだからそんなとこだろう。

「で、考えたの。自習時間と昼休み利用して潤香先輩のお見舞いにいけないかって!」

「そんなことできんの?」

「生徒だけじゃ無理だけど、先生が引率ってことなら」

 里沙が携帯をいじりだした。

「そんな都合のいい先生っている?」

「……いるのよね。マリ先生空いてる」

「里沙、先生の時間割知ってんの?」

「うん、担任とマリ先生のだけだけどね。なんかあったときのために。今日は放課後部室と倉庫の整理じゃん。それからお見舞いに行ったら夜になっちゃう」

「三日続けて深夜帰宅って、親がね……」

「でも、そんなお願い通ると思う? マリ先生、そのへんのケジメきびしいよ」

「うう……問題は、そこなのよね」

 里沙が爪をかんだ。

「……さっき、マリ先生に言ったらニベもなかった」

 二人とも、アイデアとか情報管理はいいんだけどね……。

「……わたしに、いい考えがある!」


 三人は、エサをばらまかれて首を寄せた鳩のように、ヒソヒソ話をしだした……。

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