21『……と言えば大阪だ』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・21
『……と言えば大阪だ』
課題は、社会科(正式には地歴公民科っていうんだけど、だれも、そんな長ったらしい名前で呼ぶ者はなかった)共通のもので、日本の白地図に都道府県名を書きなさいという小学生レベル。ただし、貴崎先生……(わたしまで改まっちゃった)のは――好きな道府県を(東京は地元なので除く)一つ選び、思うところを八百字以内にまとめて書くこと――なのよね。
五分ほどで道府県名を書き終えて、考えた……気になる道府県……と言えば大阪だ。正確に言えば、大阪に転校しちゃった三軒隣のはるかちゃん。
一昨日、なぜか、お父さん朝からイソイソと出かけていった。
わたしはコンクールの初日だったので気にもとめなかったんだけど。フェリペから帰ってみると、南千住の駅でいっしょになった。
なぜだか、はるかちゃんのお父さんとその奥さんも一緒だった。
奥さんてのは、はるかちゃんがお母さんにくっついて、大阪に行ったあと一緒になった新しい奥さん。つい先月入籍して、ご挨拶に来られた。
玄関で声がするんで、ヒョイと覗いたら。奥さんてのは、おじさんと一緒に今の通販会社を立ち上げた女の人。
あか抜けて、どこかの社長秘書って感じ。あとで柳井のオイチャンが教えてくれた……。
――あの人は、はるかちゃんのお父さんが、まだベンチャー企業の社長をやっていたころの本物の秘書さん……なんだって。
テレビのドラマみたいなことが、ついご近所、それも幼なじみのお家で起こったんで、正直ビックリ!
でも他人様の家庭事情にあれこれ言うのは、下町のシキタリに反する。と、柳井のオイチャンは釘を刺すのは忘れなかったのよね。だから、興味津々だったけど普通にご挨拶。
それが、夜中の十時過ぎ。お父さんといっしょに上機嫌で南千住の駅にいるんだから、あらためてビックリ!
そいで、お父さん。改札出るとき、切符を出そうとしてポケットから落としたレシート、なにげに拾ったら大阪のコンビニだった……。
ピンときた! でもお父さんから見れば、まだまだガキンチョ。わたしから聞くわけにはいかない。
三人とも上機嫌なんで、なにか言ってくれるかな……と、期待したところで、はるかちゃんのお父さんの携帯が鳴った。
歩きながら携帯と話していたお父さんの足が止まった。
うちのお父さんが寄っていった。
「え……」
という声がしたきり三人は黙ってしまった。
昨日の本番の朝、出かけようとしたら、お父さんの方から声をかけてきた。
「まどか……」
「なに、お父さん?」
「あ……いや、なんでもない」
「……はるかちゃんになにかあったの?」
「そんなんじゃねえよ」
「……へんなの」
「おめえも、今日は本番だろ。その他大勢だろうけど……ま、がんばれよ」
それだけ言うと、つっかけの音をさせて工場の方へ行ってしまった。
――も、って言ったわよね。おとうさん「おめえも」……も。
まあ、帰ってから聞いてみよう……ぐらいの気持ちで家を出た。で、あとは、みなさんご存じのような波瀾万丈な一日。
帰ったら、お風呂だけ入って、バタンキュー。
で、今日は朝からスカートひらり、ひらめかせっぱなし。
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