19『スカートひらり!』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・19
『スカートひらり!』
スカートひらり ひるがえし……愛に向かっていたわけではない。
小学校から元気だけが取り柄のわたし、ひいじいちゃんのお葬式で忌引きになった以外、無遅刻、無欠席。まあ家業が零細鉄工所、従業員もゲンちゃんとマサちゃんが辞めて、柳井のオイチャン一人になっちゃったけど。日々の生活と仕事のリズムに狂いはなく、わたしも自然と身に付いた生活習慣。
それが今日に限って……それだけ昨日のコンクールは身に応えた……と、こぼしたら、
「てめえの甲斐性でやってるクラブだろ。言い訳にすんじゃねえ!」
と、オヤジにに叱られた。
だから、家の玄関から地下鉄の車中を除いて、わたしのスカートはひるがえりっぱなし。
わたし乃木坂って好きだけど、この時ばかりは恨んだわよね。乃木神社を横目に坂道を三百メートル……五十秒でいかなきゃ、無慈悲にも正門は閉められ、脇の潜り戸。くぐったとこで、生活指導の先生の「待ってました」とばかりのお説教受けて、入室許可書もらって、授業中の教室にスゴスゴと入って……浴びるみんなの視線。で、一時間目の先生に出席簿に/の線をいれられて、痛ましく×(遅刻のシルシ)となる。
だいたい乃木高って、お行儀いいから、遅刻って日に一人か二人。たまに常習の子がいて、年度末には消えていなくなる……。
わたしも転落の第一歩……かな。明くる日からは、汗と油にまみれて、慣れない手つきで溶接なんかやらされる。そのたんびに失敗ばかりやってオヤジに叱られて、さっさと大学いって公務員の道まっしぐらの兄貴。兄貴はこまめな性格とアンニュイな表情がアンバランスなんだけど、なぜかモテんのよね。で、さっさと結婚。相手は、今の彼女の香里さんか……。
行き着く先は行かず後家の小姑……香里さんとは相性わるそうなのよね。こないだもデートのダシに使われて、いっしょにホテルのケ-キバイキング。伸ばした手の先に、ナントカいうスィーツ。
一瞬目が合っちゃって、わたしったらニッコリ笑って取っちゃった。
恨んでんだろうなあ……こんなことなら、オクユカシく譲っておくべきだった……。
われながら、五十秒の間に、これだけ妄想できるもんだ……門だ。今まさに正門が閉じられようときしみ軋みはじめた!
ガチャンと音がして、わたしの背後で正門が閉じられた。
やったー、セーフ! と、その横をわたしといっしょにスカートひらりとはためかせ、正門をくぐってきた人がいる……マリ先生だ!
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