18『ブラボー!』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・18『ブラボー!』
「初日、中ホリ裏の道具置き場を見に行ったよ」
「マスター、ハイボールおかわり!……で、お化けでも居ました?」
「いたね、ヌリカベの団体さん筆頭にいろいろ」
「あれはね、フェリペが中ホリから後ろ半分使わせてくれないから……」
「逆だね。あんなに飾りこまなきゃ、道具はソデに置いて舞台全体が使えた。芝居の基本は……おい、大丈夫かマリちゃん?」
「大丈夫。お説拝聴させていただきます」
わたしは九十度旋回して先輩と正対した。
「じゃあ、言わせてもらうけどね……」
互いに芝居で鍛え上げた声、店内いっぱいに響く大激論になった。しかし、激論しているのがテレビでも有名な(わりに、わたしは、その日まで知らなかったけど。なんせテレビ見ないし小田先輩は様変わりしちゃってるし)高橋誠司と、この界隈じゃ、ちょっとした顔の乃木坂学院の貴崎マリというので、みんな観戦者になってしまった。
何分だか何十分だかして、それに気づいた。慌てて、それぞれワインとハイボールを一気飲みしてお勘定した。お客さんが、みな拍手で送り出してくれたのには閉口。小田先輩はカーテンコールのように慇懃なポーズでご挨拶。
「ブラボー!」
マスターがトドメを刺した。
夜風が心地よかった。
「あの店のマスター、昔は芝居をやっていたとにらんだね」
「あのブラボー?」
「うんにゃ、あの店の内装、客席の配置。タパスの料理の並べ方。ミザンセーヌ(舞台での役者の立ち位置と、そのバランス)が見事」
「そう……ですよね」
と、わたしは頼りない。
「酒と料理を出すタイミングは、名脇役のそれだ!」
「先輩、酔ってます?」
「程よくね……それに、あの店の名前」
「KETAYONA?」
「わからんか。まあ、暇があったら逆立ちでもしてみるんだな!」
先輩は立ち止まって、大きな伸びをした。わたしもつられて大きなアクビ。
ふと気づいて後ろを見ると……なんと、その種のホテル!
視線を感じると、横で先輩がニンマリ。あわてて首を横に振る。パトロ-ルのお巡りさんが、チラッと見て通り過ぎた。その後をたどるようにわたしたちは歩き出した。
「ハハ、そういうリアクションが苦手なんだよな。マリッペは、芝居作りよりレビューってのかな、そういうものとかプロディユースの方が向いてるかもな」
「わたしは、現役バリバリの教師です!」
「はいはい、貴崎マリ先生」
「あのね……」
その時、人の気配に気づかなかったのは、やっぱり二人とも酔っていたのかもしれない。
明くる日、わたしは珍しく遅刻してしまった。
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