Lonely wolf〜ひとりぼっちの狼〜

依月さかな

prologue

 夢を見た。

 懐かしむほど過去ではない、真新しい記憶。






「ノア、話がある」


 夜が更けた頃、部屋に戻ろうとしていたら呼び止められた。


 面倒だったけど、無視するわけにもいかないので立ち止まる。振り返ると、白い髪の魔族ジェマが立っていた。


「何? 僕、今忙しいんだけど」


 心底嫌そうな顔をしたら、白い髪の魔族ジェマはため息をついた。相変わらず僕が馴れ合おうとしないのに、飽き飽きしてきたのかもしれない。


 彼は僕の後見人で、名前をカミル=シャドールという。父親がいなくなってから僕の面倒を見てくれているんだけど、僕はあまり関わりを持とうとはしてこなかった。


「ノア、なぜノイシュを追い出した」


 なんで勘がいいかな。そんなに時間は経ってないのに。


「なぜだなんて、何を今更。カミルだって分かってるくせに」


 胸の中に宿っているのは、どす黒い感情。笑ってみせたけど、きっと僕の顔はカミルから見たらひどく歪んでいるに違いない。


「ノイシュのせいでラーシュは翼を失ったし、イリスは目が見えなくなってしまった。全部ノイシュのせいじゃないか。追い出されて当然だよ」

「それは違う。ノイシュは悪くない。あの子もお前達と同様、結局は愛されなかった。それにノア、ノイシュはお前と同じ母親の血を分けた弟じゃないか」


 やっぱりカミルはノイシュの味方か。

 それも当然だ。保護者の立場からしても、末の弟の味方をするべきだろう。兄はいつだって損をする。

 僕達のような特殊な兄弟なら、なおさら。


「……分かった。じゃあ、僕も城を出て行く。それで問題ないだろ」


 何の未練もなかった。もともと、こっそり出て行くつもりだったし。

 くるりと背を向けると、咎めるようなカミルの声がとんでくる。


「ノア」


「じゃあね、カミル。もう帰ってこないかもしれないけど」




 カミルはそれ以上何も言わなかったし、僕も二度と振り返らなかった。


 こうして僕は、生まれ育ったノーザン王国の城から出て行った。

 数ヶ月前のことだ。

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