二日目

4月14日 石川先生が頑張ってる。あと、ケータイをとりあえず返した。なんだか水無さん元気がなさそうだったなぁ。




――――――――




 目覚まし時計が鳴る。昨日と同じく、一回叩き損ねるのはご愛嬌。母さんが出してくれた和食とも洋食ともつかない朝ごはんを食べて、学校に向かう。電車に揺られていたら、同じ車両に水無さんが乗っていた。寝ている。起こすのも悪いな。と思いつつもそろそろ駅についてしまう。致し方ない。


 「おーい。水無さん?」


 揺すってみる。レスポンスは無い。


 「起きろ!」


 小声で水無さんにチョップをかます。


 「ぐげっ」


 おおよそ華の女子高生とは思えないような声を上げて、水無さんがのっそり動いた。


 「うーん,,,ああ、木崎くん。ってえ!?私寝てた!?」


 「うん。寝てたから起こした。そしたらカエルが踏まれたみたいな声を出して目を醒ましたから安心したよ。」


 「ああ、それはそれは,,,朝からお聞き苦しい物を,,,」


 水無さんが照れたように頭をかきながら答える。


 「ああ、そうだ。水無さん。昨日大丈夫だった?携帯忘れてってたけど,,,」


 「え、あ、ホントだ。携帯がない。ありがとう。」


 「なんで昨日あんなに顔色悪かったの?ってか大丈夫だった?」


 「ああ、ちょっと寝不足で,,」


 「そっか、気をつけなよ。」


 「うん。ありがとう。」


 すれ違った先生に適当に挨拶をしつつ教室に向かう。


 「お、木崎!おはよー


 「ああ、佐々木くん。おはよう。」


 「呼び捨てでいいぜ!そっちのがなんか高校感あるじゃねーか!」


 「高校感ってなんだよ。じゃあ、佐々木。おはよう。」


 「おう、ところで木崎今日はコンタクトなのな。」


 「ああ、昨日は忘れてただけだから。」


 「いいじゃんいいじゃん、そっちのが格好良いぜ!」


 「そらどうも。」


 「木崎くんおはよー!あ、水無さんも!」


 後ろの席の斉藤さんが顔を出してきた。


 「うん、斉藤さんおはよう。」


 「もー、水無さん。桃でいいよー!折角隣同士なのに〜。」


 「分かった。でもそういう桃ちゃんも咲って読んでくれていいのに。」


 「うーん、なんか水無さんは水無さんって感じなんだよなー。」


 「なんじゃそりゃ。」


 「まあいい。私も咲ちゃんと呼ばせて貰おう。」


 「それ誰の口調?」


 男女分かれて喋る。やっぱ男同士、女同士ってのは気楽なんだろうな。などと佐々木の言うところの高校感を噛み締めていたら、扉の方で何かがぶつかった音がした。


 「痛。」


 橋田君が教室の扉の枠に頭をぶつけていた。でかい。橋田くんはそのまま何事もなかったかのように、僕の後ろの席につく。でもめっちゃ目立ってる。


 「橋田くんおはよう。ほんとにジャイアンって感じだね。」


 「まあな。中学校での渾名も伊達じゃないだろう。」


 「すげーな!身長どれだけあるの!?」と佐々木


 「1m96だ。」


 「ふぇー。」「でっかい!」


 興味津々に聞いていた女子二人も思わずリアクションをする。身長を聞いてもやっぱり普通に立っているだけでめっちゃ目立つ。


 「そういえば、今日木崎くんと咲ちゃん一緒に登校してたよね!入学二日目にして早くも惹かれ合っちゃった感じ〜?」


 斉藤さんがニマニマしながら聞いてくる。


 「いやいや、昨日水無さん途中で帰っちゃったじゃん。あのときに携帯を忘れてってるのに気がついたんだよねー。それを返してただけ。」


 「なんだ。面白くない。」


 ほんとは寝てたのを起こしたりしてるんだけれども、これを言うとますますおちょくられそうだから辞めておく。


 「そういえば、今日の用意は何だったんだ?」


 「多分何も要らないはずだ。係決めや連絡などをするのだろう。」


 佐々木の問いに橋田が答える。


 「はーいそろそろチャイムがなるぞー。席につけー」


 扉を開けて入ってきた先生の言葉に、皆パラパラと席に戻る。みんなが席に戻った辺りで、始業のチャイムが鳴った。


みんなが席に付く。一時間目は委員会や係決めらしい。各委員会には男女一人ずつ入ることになっている。


 委員会なぁー,,,何かしらやりたいんだよなぁ,,,と思い、まず何の係があるのか見てみる。


 「ねえ、佐々木くん。私学級委員やりたいんだけど、佐々木くんもやらない?」


 「おう、そうだな。俺も若干やりたかったから迷ってたんだけど、斉藤がやるってんならなんとなく顔見知りで安心だし、やっておこうかな。」


 「やった。じゃあ、先生!私学級委員行きます!」俺も!」


 「よし!分かった。こいつらが学級委員でいいっていう奴は2人に盛大な拍手を送れ!」


 一斉に拍手が鳴る。


 その後、保健委員と風紀委員が決まった。男女2人ずつにならず、取り合いになった枠もあったのだが、石川先生が明るく振る舞い、場の雰囲気は和やかなままに事は進んだ。


 「じゃあ次だ!体育委員に入る奴!」


 「「はい。」」


 2人が手を挙げた。一人は隣の席の何故かすごく満足げな顔をしている橋田と,,,もう一人は。あれ?どこ?


 「よし!じゃあ橋田と萩野!頼んだぞ!」


 どうやらテンションの高くなった先生からはその子は見えているらしい。なんだか釈然としない。


 でも、その事は一旦後で考えることにしておいて、僕は残り少なくなった委員会のどれに入ろうか考える。よし!決めた!


 「じゃあ、生活委員に行く奴!」


 「「はい!」」


 僕ともう一人の手が上がったらしい。誰が立候補したのだろう?


 「じゃあ、木崎と水無。君たちに決めた!」


 うん?




 「あ、えーっと、木崎くん。よろしくね。」


 「あ、うん。」


 「なんか良く一緒になるね。」


 「ああ、そうだね。電車にしろ、委員会にしろ。ところで、水無さんはなんで生活委員に来たの?」


 「それは,,,思い出を残せるかもしれないから。かな,,,。そういう木崎くんはなんで?」


 「僕はなんでもいいから適当な委員会に入りたかったんだ。なんとなく、自分を変えるいい機会になりそうだったから。」


 「ふーん。」


 なんとなく話していたら、後ろから声がした。


 「へえ、あんたが体育委員で一緒になる橋田かー。宜しゅう頼むわ。」


 ちっちゃい子が橋田くんの前で仁王立ちしている。小動物感が全身から漂っている。この身長じゃさっき、先生には呼ばれていたのにも関わらず、姿が見えなかった訳だ。


 「ちょっと、何ジロジロ見てんねん!」


 「ああごめん、何でもない。」


 「もう、どうせ″この子ちっちゃ!?身長何センチなのかな?”とか考えてたんと違うん!?」


 「えーっと,,,」


 図星です。すみません。特に、体育委員では橋田くんと並んでいて、小人のように小さく見える。現に萩野さんは橋田くんの鳩尾くらいまでしか身長がない。それに関西弁という、また特殊な,,,どこから来たんだろう?


 「じゃあ、萩野。これからもよろしく頼む。」


 「うん!こちらこそやで。」


 と、出身地を聞こうとしたら、萩野さんは挨拶して素早く去って行った。すばしっこい。小動物でもリスみたいだ。


 「あ、斉藤さん、俺らもよろしくな!」


 「うん!よろしく!」


 委員会になったもの同士、皆話しているようで、クラスは昨日より賑わった。この調子なら、近い内に皆打ち解けて活気あるクラスになりそうだ。

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この露が落ちる時まで Mt.danple @yamadanngo3848

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