修学旅行

 思い出したので書いてみます。

 高2の10月に修学旅行で京都奈良方面へと行きました。

 1泊目の宿は大部屋で、3班一緒になったのですが、旅行中の怪異の元凶は、この夜に起きたことだったのではと今では思います。


 ずらりと敷かれた布団の1枚に、血痕がついているのを見つけてしまった子が居ました。その血痕は見えないように裏にされていたのですが、布団を移動しようとした拍子に見えてしまったようです。

 位置的には布団の端の真ん中近くで、結構大きな染みでした。鼻血だとしたらかなりの量です。どうしたらこんな大きな血痕染みが出来るのだろうというくらいのもので、みんな気味悪がって騒いでいました。

 交換して貰おうと言い出す子も居たのですが、ただの血痕に騒ぐこともないと、私がその布団で寝るからいいと申し出たのです。


「怖くないの?」と訊かれました。怖い要素がどこにもないので、私は別にと答えました。けれど旅先の宿で血痕がついた布団などというシチュエーションになれば、当然のごとく『怪談話』が始まります。

 部屋を暗くして盛り上がり出した女子高生は止まりません。次々と怪談が続いていきます。

 旅行初日で疲れていたし、早く寝た方が賢明だなと思っていると、壁をコツコツと叩くような音が聞こえました。その音に気づいたのは、私の他に数人居たと思います。


 コツコツ、コツコツと時折聞こえる音に、私は不快感に似た寒気を感じて布団に潜りました。

 そのすぐ後に誰からともなく「早く寝よう」と声があがり、部屋は静かになったのですが。嫌な冷気が部屋の中に漂っていたのを覚えています。

 布団を被ったまま眠れずにいる私の耳は、壁をコツコツと叩き続ける音と、部屋をズスズスと引き摺るように歩く音、うなされる呻き声を捉えていました。


 引き寄せたのだと思います。

 大部屋は角部屋だったので、コツコツと音がしていた壁の向こうには、当然ながら部屋はありません。

 部屋を歩いていたのは、引き寄せられた霊だったのだと思います。

 うなされていた子は、次の日の夜には訳の分からない言葉をぶつぶつと言い続け、明らかに憑かれていました。


 昼間は問題なかったのですが、夜は毎晩不穏だったと、妙な記憶だけが残ってしまった修学旅行の思い出です。

 


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