百物語

 確か中学2年生の秋でした。

 何がキッカケだったのかは覚えていませんが、百物語をやろうという話になったのです。

 部活動が休みの放課後でした。時間を持て余したクラスメートが、百物語をやろうと言い出しました。

 その場に居合わせてしまった私も、メンバーに加えられました。無視して帰れば良かったのですが、百物語に興味があった私は、残ってしまいました。

 興味本意でやってはいけないものがあると、キューピッドさんで学んでいたのに魔が差したとしか言えません。


 学校のすぐ近くに住む子が、家からロウソクとマッチを持って来てから始めたと覚えています。

 参加した人数は10人ほどでした。

 正しい百物語の知識などなく、ただ怪談を話してロウソクを消していけば、何かが起こるかもしれないという程度の認識で、危険な遊びを始めたのです。


 机や椅子を退け円座になったメンバーは、手にしたロウソクに火を灯し、体験した話や聞いた話、様々な怪談話をしてはロウソクを吹き消していきました。順々と話しては、ロウソクを吹き消し──。

 全員が話し終えるまでには、教室は薄暗くなりかけていたと思います。


「──これで終わります」

 そう言って、最後の私がロウソクを吹き消した瞬間でした。

 教室内が、まるで夜中のように真っ暗になりました。まだ夕方なのにあり得ない暗闇に包まれた中、女子は悲鳴をあげ抱き合って震え、男子は「電気つけろ!」と怒号をあげました。

 そんな騒ぎの中、「うわっ! 窓、窓にっ!」誰かが窓と叫び、振り向いた全員が恐怖に悲鳴をあげました。


 木枠建具の磨りガラス窓の一面に、びっしりと人影のようなモノが張り付いていたのです。その影は、蠢きながら教室に入ってこようとしているようでした。

 泣き出す子もいて半ばパニックになる中、廊下からギシッ、ギシッ、と足音が聞こえてきました。

 恐怖に身を寄せ、震えながら教室の真ん中で塊になっていると、教室の後ろ側の戸がガラッと開き、パッと教室が明るくなりました。

「何やってんだ、お前ら! 早く帰れよ!」

 怒鳴りながら顔を出したのは、教頭先生でした。

 全員が狐に摘ままれたような顔のまま、急き立てられて教室から出て行きます。

 私は教室の照明を消す為、黒板のある方へと移動して、はたと気づきました。


 ──誰が、照明を点けたのか?


 教頭先生が顔を出したのは、後ろの戸です。そこに照明スイッチはありません。この場に居た生徒は全員、教室の真ん中で塊になっていました。

 照明スイッチは教室前方、黒板の横にあるのです。誰も照明スイッチには近づいていません。

 遊びでやっていい事と悪い事があるとつくづく思った経験であり、初めて集団で体験した心霊現象となった苦い記憶です。


 ちなみに。参加したメンバーの半数に、霊感がある生徒と狐憑きの生徒がいたので、喚んでしまった可能性も考えられます。

 中学校の南の高台には、戦没慰霊碑があるのですから、あの日、遊びでやった百物語で現れた無数の人影らしきモノは、もしかしたら──……。



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