極楽墓地

 三角地帯を為す一番東のポイントに当たる墓地は、日当たりの良い場所にあり、古くからの檀家の墓が大半を占めています。因みに、母の実家の墓も此処にあります。

 この墓地に面した西に、クラスメートのK君の家が建っていました。


 中学校の授業で出されたグループ学習の課題の件で、K君の家に集まったことがありました。

 K君の部屋は2階にあり、東に面した窓からは墓地が見渡せるという、ちょっとホラーな部屋でした。

 初めて訪れたクラスメートが口々に「怖くない?」と尋ねると、K君は苦笑いしながら「怖くはないよ。何にもないし」と答えます。

 本当に何もないのか、としつこく尋ねるクラスメートにK君はサラリと告げました。


「たまに火の玉が浮いてっけど。あと東風だと声がすっかな……」


 一瞬にして静まるクラスメート。何事も無かったようにK君は、課題早くやろうぜと笑っていました。

 実はこの日は東風で、K君の家に向かっている最中、私には既に微かな音が聴こえていました。

 それは呻き声とも、欠伸のような声ともつかない、聞きようによっては木枯らしが吹き抜ける音のような、もの悲しいものでした。

 私の他に霊感のあるI君も音には気づいていて、二人とも墓地から聞こえるのではと予測していたので、K君の話には驚かなかったのです。


 K君には霊感が無いようでしたが、幼い時から墓地の隣で育った為、火の玉や声を認識しているようでした。

 K君の部屋に霊障などは感じられず、課題を無事に済ませて帰り道に着きました。


 墓地だからといって、不吉とは限りません。誰かしらのご先祖が眠っている、という場所なのですから。

 ただ、古くからある墓地は、土葬された仏さまもいらっしゃるので、死体が埋まっていると想像すれば、背筋が寒くなるかもしれませんが。


 この東の墓地がある付近の地名は、極楽といいます。




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