降霊遊び
小学校も高学年になると、時に好奇心で危険な遊びを始めてしまうことがあります。危険な遊びというのは、魅力的に思えるのでしょう。
私が小学高学年か中学に入学したばかりの頃に、『キューピッドさん』という一種の降霊術遊びが、全国的に流行りました。
たぶん『こっくりさん』を模して出来上がったものだと思いますが、定かではありません。
1枚の紙に平仮名五十音をぐるりと書き込み、数字を0から9までと、はい、いいえ、という返答と血液型のアルファベット、中央にはハートが書いてあったと思います。
ハートに10円玉を置いて、10円に4人が人差し指を載せて行っていたように覚えています。
細かいルールもあったかもしれないのですが、遊びに加わっていなかった為、詳しいことは知らないままです。
実に粗悪な降霊術でした。そんなものでも、休み時間ともなると熱中した女子生徒を中心に、男子生徒までもが『キューピッドさん』をやっていました。
ある日、私に声がかかりました。
やりたくないと不機嫌に断ったのですが、しつこく誘われ仕方なく、一度だけという約束で輪に加わりました。
そして私が10円に人差し指を置いたとたん、
ズルズルズル――……
何も唱えないうちに10円玉が動き出し、それは徐々にスピードを上げて、紙の上を滑り出しました。
今までに見たことがないスムーズな動きに、やっている3人も見ている周りも大興奮していました。
違和感を感じていたのは、私だけだったようです。
降霊術とは言えこんな粗悪なやり方なら、大概の場合は参加している者の自己暗示で動いているはずです。
誰かが故意に動かさない限り、こんなスピードでグルグルと動くなんてあり得ない、おかしいと。夢中になって参加している他の3人の指先を見つめながら、違和感の原因を考えていた時、誰かが休み時間が終わるよと言い出しました。
慌てて「お戻りください」と唱えても、10円はハートに戻ろうとしません。何度唱えても戻らない10円玉に、周りが怖がり始めた中、苛立った私が
「戻せばいいだろ」不機嫌丸出しに呟き、指先にグッと力を入れて、ハートの上を通り抜けようとした10円の動きを押さえつけました。
その瞬間、バチッと静電気のような痺れが起き、指を置いていた他の2人が、悲鳴を上げながら慌てたように指を離しました。
ひとりだけ──
私の正面で指を離さなかった子が、私を見つめて微かにニヤリと笑ったのです。その瞬間、私は違和感が何だったのかに気づきました。
狐憑き。当時、その子の家は狐憑きと陰口を叩かれていました。
精神を病んでしまう者、自殺する者、軽犯罪で捕まった者。その子の家族や親戚には、そういった事例がとても多かった為、あの家は狐憑きだと言われていたのです。
そんな陰口など、どうとも思っていなかったのですが、私を見つめて口元を微かに歪めた彼女の、笑っていない眼の奥にあった剣呑な光に、私はゾッとしました。狐憑き、と呼ばれる血筋に宿る不気味さに。
彼女は紙を片付けながら、嬉しそうに私に囁きました。
涼月さんって、霊感体質なんだね。
以来、私は『キューピッドさん』には絶対に加わりませんでした。
間違った降霊術は、何を引き起こすか分からない。遊びでやるものではないと、今も強く思っています。
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