夢か現か

 夢なのか現実なのか定かではない、という経験は誰しもあるかと思います。私の一番古い夢現ゆめうつつ記憶は、四歳か五歳くらいだったでしょうか。


 その夜、愛用の長座布団に寝かされている私は、高熱を出していました。よく熱を出す子だったので、家族はいつものことという感じで、私を寝かせて台所で夕食を摂っていました。


 高熱のせいで頭が痛くて、ぼんやりとした意識の中、食卓を囲む声や音を聞いていたのを覚えています。

 寂しくて辛くて苦しくて。その時、ひんやりと冷たい手が、私の額に触れました。

 氷のように冷たい手が、額の熱を奪っていきます。ズキズキしていた痛みが薄れ、ゆっくりと額から頭へと撫でるリズムに、気持ち良くなりながらも疑問が浮かびました。

 この手は、誰の手だろう?


 家族は台所です。私の傍には誰も居ません。何よりも、ひどく冷たい女性の手は、母のふくよかな手とは全く違うものでした。

 いったい誰が私に触れているのかと、目を開けようとした瞬間、ビタッと乱暴な小さな手が、私の額を叩くように触ってきました。

「あ、熱下がってるよ!」

 聴こえたのは兄の声。目を開けると次兄が私を覗き込んでいました。

 

 この時のことを後から聞いたところ、食卓から見える位置に寝ていた私は、微かに呻きながら眠っていて、傍には誰も居なかったし、何かが視えたりもしなかったそうです。

 でも、あの時、熱を奪いながらゆったりと撫でる手を、私は確かに感じていました。

 

 あれはいったい、誰の手だったのでしょうか。

 夢だったのでしょうか、現だったのでしょうか。


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